Paul Simon「KODACHROME」

2012.01.06(Fri)


There Goes Rhymin' SimonThere Goes Rhymin' Simon
(1987/11/07)
Paul Simon

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つい先日、米イーストマン・コダック社が破産法申請か、というニュースが飛び込んできました。アナログからデジタルへの時代の流れを感じさせる出来事ではありますが、それはさておき、このとき私の頭に真っ先に浮かんだのがこの曲、ポール・サイモンの「僕のコダクローム」です。ちなみにコダクロームとは、コダック社のフィルムの名称です。

1973年に発表されたポール・サイモンのセカンドソロアルバム『ひとりごと』は、前作の重く暗いイメージを払拭し、ジャズやゴスペルのテイストを取り入れた、軽快で明るいアルバムになっています。その1曲目を飾る「僕のコダクローム」は後にシングルカットされ、大ヒット曲となりました。ブランド名をタイトルに据えるという当時としては大胆で画期的な試みをしただけでなく、「ポップ・ソングのお手本」とも評されるこの名曲を、今回は取り上げてみたいと思います。

サビで「コダクローム」と声高に歌うこの曲は、コマーシャルソングと誤解されかねない事、そして冒頭の歌詞に「crap」という単語がある事などから、当時の放送局にはこの「僕のコダクローム」を流すことに難色を示したところもあったそうです。「crap」は「ガラクタ」と訳されていますが、俗語で、くそ、たわ言、などといった意味のある非常に汚い言葉で、それまでの主流のポップスでは使われたことがなかったのだそうです。
また、歌詞やタイトルにブランド名を使用したことで、コダック社にすべてのものに著作権のシンボルを付けさせられ辟易した、と後にポール・サイモン本人が語っています。この記事でもポール・サイモンに敬意を表して、アルバムに記されている文言を最後に付け加えることにしましょうか(笑)。
このように、歌詞の面では当時の常識を打ち破る画期的な曲だったようですが、ここではもちろんサウンドに注目していきます。

ロックンロールを基調とした軽快で明るく元気な曲、という印象の「僕のコダクローム」は、改めて聴いてみると大胆な音像定位に驚かされます。基本的に左・中央・右の3点定位で、とりわけユニークなのがドラムの定位です。
バスドラムは中央に、スネア・タム・ハイハットは左に、そしてクラッシュシンバルのみ右に、という定位は珍しいと思います。もちろんひとつのドラムセットを複数のマイクロホンで収録しているので、それぞれのマイクロホンには目的以外の音が入ってきています(カブり、なんて呼んでいます)。したがって、完全にセパレートしている訳ではなく、特にクラッシュシンバルは完全な右定位よりは内側に聞こえていますし、右チャンネルにはスネアやハイハットなどの音も小さく聞こえています。また、スネアのリムショットは他のドラム類よりもリバーブのノリが良いらしく、残響は左右両方にたっぷりと広がって聞こえています。

ここで一応、主だった楽器の定位を記しておきます。最も印象的なアコースティックギターは数本使用されていて、右と左に振り分けられています。ボーカルはハモりも含めて中央で、バスドラム、ベース、エレキギターも中央です。
左チャンネルに先程のスネア・タム・ハイハット、それに柔らかいサウンドのブラスセクションが定位しています。右チャンネルはクラッシュシンバル、パーカッション、エレキピアノ、アコースティックピアノ、という感じです。

ポール・サイモンのボーカルはとてもナチュラルな音質であると言えるでしょう。ダブルに重ねていて、部分的にハモったりユニゾンで厚みを出したり、という手法が取られているようです。リバーブは案外深くかけられていていますが、うまく馴染んでいてあまり目立たず、音像はかなりはっきりとしています。タイトでありながら湿った感じのサウンドを得意とするフィル・ラモーンの真骨頂、なのでしょうかね。

アコースティックギターは全体的にシャキッとした歯切れの良い音です。印象的なロックンロール風のリフは力強く中低音もしっかりして、巻弦の感じがよく聞き取れるリアルなサウンドですし、左チャンネルから聞こえる裏打ちのコードやアルペジオは演奏の強弱がよくわかる、メリハリのあるサウンドです。

ベースは太く、ややユルい感じのサウンドですが、押し出しの強いバスドラムと一体となって、心地良いノリが表現されていると思います。
ドラムは、全体的にあまり高域成分は感じられませんが、輪郭のはっきりとした太くリアルなサウンドで、特にハイハットの開き具合などのニュアンスが非常に良く聴き取れます。

右チャンネルから聞こえるパーカッションは、ポール・サイモンがレコーディングスタジオにあるあらゆる物を叩いてみた結果、録音テープのケースをドラムスティックで叩いた音が採用された、と以前にどこかで聞いたことがあります。ケースはプラスチック製でしょうか? 繊細でありながら、左チャンネルのドラムサウンドと互角に渡り合うリズムプレイが印象的です。

エレキピアノの音は地味で柔らかいのに対し、硬質なアコースティックピアノはホンキートンク気味で明るいサウンドです。度々出てくるアコピのグリッサンドは強烈で効果的なアクセントになっていますね。後半では高域を連打し、曲の盛り上がりに大きく貢献しています。速い3連のフレーズなどは調律がアヤし過ぎて、もはやピアノには聞こえません(笑)。(もしかして、本当に別の楽器だったりして…)でも、このサウンドが何とも言えない良い雰囲気を作り出しているんですよねえ。

エレキギターはジミー・ジョンソン(ベーシストのジミー・ジョンソンとは別人なのかな?)とクレジットされていますが、ちょっと聞いただけではどこにエレキギターがいるの? と思ってしまうほど目立ちません。よく聴いてみると…、いました(笑)、コードやそのベース音の上昇・下降のフレーズを地味にサポートしている感じです。また、後半ではブラスセクションとの掛け合いになるような地味~なフレーズを淡々とプレイしています。こういった元気な曲で、エレキギターがこれほど地味な演奏をしている、というのも珍しいような気がします。

個々の楽器のサウンドについて見てきましたが、これらのパートの組み合わせが実に素晴らしいのです。この緻密に計算されたアレンジとエンジニアリングを、じっくりと味わいたいものです。色々とゴタクを並べても、結局は「聴いてみてね」という一言に集約されてしまうのは悔しい限りでありますが…。

さて、ポール・サイモンの『1964/1993』というベストアルバムには、リマスタリングされた「僕のコダクローム」が収録されていて、こちらはアルバム『ひとりごと』よりもスッキリとした聞きやすいサウンドになっています。しかし、私は少々低音がブカブカしたような粗っぽさのある、こちらの『ひとりごと』に収録されたバージョンのほうが好きだったりします。

また、1991年の『ライブ・イン・セントラル・パーク』では、アルマンド・サバル・レッコの超絶的ベースをフィーチャーした、まったく違うアレンジの「僕のコダクローム」を聴くことができます。素晴らしい演奏なのですが、ちょっとアレンジを凝り過ぎちゃったかな、という気もしますね。ミックスも荒っぽいので(ライブなので仕方ありませんけど)願わくは、このアレンジをスタジオレコーディングで聴かせてほしいところです。

ちなみにコダクロームフィルムは現在では製造・販売ともに終了しているそうです。


"KODACHROME"® is a registered trademark for color film.

   


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COMMENT

PATTI

No title

さはんじさま。

こんばんわ!新年のご挨拶はしましたっけ?
かなり痴呆が…

わたし、サイモン&ガーファンクルが大好きだったんですよ。
だからもちろん、ソロのポール・サイモンも好きでした。
Kodachrome懐かしい!Mama,don't take my Kodachrome×3
away!ってサビのコーラス最後にポール・サイモンが、〝OK!!″って
いうの。そこがすきだったな~
そうそう、crapって歌詞は、冒頭1行目に出てきますね。あと、
I've got a Nicon cameraって歌詞もありますね。日本ではニコンと
発音するのにポールは、ナイコンと言ってたので鮮明に覚えてます。

2012.01.07(Sat) 01:29 | URL | EDIT

さはんじ

Re: No title

>PATTIさん
コメントありがとうございます。

私もS&G大好きです。ポール・サイモンのソロはもっと好きですけど(^^)
"OK!!"は比較的小さな音量で入っていますが、セッションの楽しい雰囲気が伝わってくるような気がしますよね。この声があるのとないのとでは、その後の演奏のノリ(リスナー側にとっての)がまったく違うと思います。
たった一声ですが、これも音楽にとって重要なピースのひとつなのでしょうね。

そうそう、ニコン・カメラも出てきますね。歌詞に難解な比喩的表現をよく使うポール・サイモンですが、ちょっとした小道具(?)の選び方にもセンスを感じます。
S&G時代には「ミセス・ロビンソン」の中で野球選手のジョー・ディマジオを登場させたりしてました。

2012.01.07(Sat) 22:08 | URL | EDIT

PATTI

Paul Simon

さはんじさま。

わぁ、嬉しい!もちろん、知ってますよ!だって、
女の子2人で、高校のときS&Gコピーバンド
やってたんだもの!
つい最近、Rumerって女性ヴォーカリストが
Paul SimonのLong Long Dayを歌ってるのを発見!

姉がCDを買ってくれるというので、それを
お願いしました。

カヴァーといえば、Randy Crawfordが、
Something So Rightのカヴァーを出してたっけ。

私はSome Folks' Livesをカヴァーしてみたいと
ずーっ思ってて、まだ実現していません。

S&G Paul Simon.
またキコッと

2012.01.09(Mon) 00:22 | URL | EDIT

さはんじ

Re: Paul Simon

>PATTIさん

まさかここでPaul Simonトークができるとは嬉しい限りです(^^)。

「Long, Long Day」とはまたシブい選曲で。これ、Patti Austin とのデュエットでしたね。
「Something So Right」、大好きですよ。でもRandy Crawfordのカバーは知りませんでした。

私はどちらかというと Jazz/Fusion系の、インストバージョンのカバー曲をよく聴いていたので、ボーカルものは詳しくないのですが、Everything But The Girl の「The Only Living Boy in New York」はとっても良かったです。
あと、New York Voices の『The Song of Paul Simon』というカバーアルバムもなかなかです。

カバー曲の場合、お馴染みの曲も新鮮に聴けて「あれ、こんなに良い曲だったっけ」なんて、オリジナルの良さを再発見できたりしますね。

2012.01.09(Mon) 18:43 | URL | EDIT

PATTI

No title

さはんじさま。

しつこくまた・・・ごめんなさいねv-436
Paul Simonが好きだったころ、まだ、Patti Austinを
知りませんでした。

後にLong Long Dayや、Fifty Ways To Leave Your Lover
なんかにPattiがバックコーラスで入ってることを知り、
すごく嬉しかったのを覚えています。

そのニューヨークの少年、ききたいな。
New York Voicesも、ぜひききます。

楽しいお話、ありがとうございました。

2012.01.09(Mon) 23:17 | URL | EDIT

さはんじ

Re: No title

>PATTIさん

いいえ、こちらこそとても楽しいコメントをありがとうございました。
またお話ししましょうね(^^)

2012.01.10(Tue) 11:31 | URL | EDIT

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