椎名林檎『勝訴ストリップ』

2012.03.27(Tue)


勝訴ストリップ勝訴ストリップ
(2000/03/31)
椎名林檎

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このところ懐かしのフォークロック的なレビューが続いていたので、ここらでちょっと毛色の変わったものを取り上げたいと思い、今年2月で自身のバンド「東京事変」を解散した椎名林檎が2000年に発表したセカンドソロアルバム『勝訴ストリップ』を選んでみました。
真っ赤な口紅のナース姿でガラスを叩き割るPVが印象的なヒット曲「本能」や、「罪と罰」「ギブス」といったシングル曲を収録したこのアルバムはダブルミリオンの大ヒットとなり、数々の賞を受賞しています。
前作『無罪モラトリアム』は図太いバンドサウンドを核にしながらもバラエティに富んだサウンドのアルバムでしたが、この『勝訴ストリップ』は一転、全編過激かつ攻撃的なサウンドで埋め尽くされています。

このアルバム『勝訴ストリップ』は刺激的なサウンドはもちろんですが、何と言ってもその音圧感に圧倒されます。一聴するとあらゆるパートにコンプレッサーを深くかけ、感性の赴くまま無造作に放り込んだ楽曲のように聞こえるかもしれませんが、よく聴き込んでみると広がりや奥行きなどのバランスは絶妙で、細部に至るまで緻密に計算された職人芸のようなアレンジ&エンジニアリングであると想像できます。シロウトが安易に真似をすると大ケガをするでしょうね。
それぞれの楽器(ボーカルも含みます)にはおそらく目一杯コンプレッサーがかけられていて、その音を単独で聴くと不自然なサウンドなのですが、楽曲としてトータルにみると非常に芸術的に仕上げられていると思います。

1曲目「虚言症」のイントロからこのアルバムの世界観は全開です。不自然にコンプレッションされたようなアコギと太くノイジーなエレキギターのアルペジオ、太く重いベースにオートパンを伴ったギターのノイズサウンド、フルート風の音はシンセサイザーでしょうか。パワフルなツインドラムにささくれだったような重低音ノイズなどなど…、存在感のある過激なサウンドが詰め込まれています。左右に振り分けられたツインドラムによってハードながらも心地よい広がりが演出されていると思います。
ボーカルも深くコンプレッションされた硬いサウンドで、図太いオケの中でもきちんと歌詞が聴き取れます。
エンディングはオケ全体に徐々にフィルターがかけられ、モノラルに収束しながらアナログレコードのスクラッチノイズに埋もれていきつつピッチを落としていくという、非常に手の込んだ処理がされています。
この曲に限らず、アルバム全体を通して曲間にはほとんど隙間がなく、凝りに凝った様々なサウンドで加工がされており、聴き応え充分です。

1曲目が消えきる前にボイスによるリズムが聞こえ始め、ヘビーなサンプリングのリズムが入ったところからが2曲目「浴室」です。なかなかキャッチーな曲調のこの曲はフレットレスベースや深い残響を伴ったノイズギター、エレキピアノの浮遊感や椎名林檎本人によるピアノが印象的です。

3曲目「弁解ドビュッシー」(なんだこのタイトルは (^^; )はツインベースなのでしょうか。歪んだギターとベースは太くヘビーなのですが、ドラムはずいぶん軽いサウンドです。と思ったらタムは重い音してますね。ボーカルには大胆にフィルターとディストーションがかけられています。

サンプリングのピアノが印象的なバラードの4曲目「ギブス」は、1コーラス目のサビに入る直前、ボーカルのボリュームがふっと不自然に大きくなるように聞こえます。マスタリング時にでも何らかの調整を加えたのでしょうか。

5曲目「闇に降る雨」のストリングスにも大胆にコンプレッサーがかけられているようです。不自然なほどに太く存在感のあるそのサウンドは、しかし過激なバンドサウンドにうまくマッチしています。間奏のシタール風ギターが印象的ですね。

攻撃的なロックナンバーの6曲目「アイデンティティ」は、ユルい感じのバスドラムとカンカン鳴るスネアが、爆音のギターやディストーションのかかったベースとうまく調和しているように思います。冒頭の長いシャウトは圧巻で、喉は大丈夫?と心配になってしまいますね。

オルガンと浅井健一(BLANKY JET CITY)の硬く太いギターをフィーチャーした7曲目「罪と罰」、様々なボーカルやボイスをコラージュした8曲目「ストイシズム」、ぶりぶりと歪んだベースが印象的な9曲目「月に負け犬」と多彩な椎名林檎ワールドが展開し、その極めつけとも言えるのが10曲目「サカナ」です。

ハープシコードとボーカルの可愛らしいイントロにノイジーなギターが被さり、それがカットアウトしたかと思うと今度はミュートトランペットをフィーチャーしたダークでジャジーな雰囲気の曲が始まります。が、ライドシンバルの代わりにざらざらとしたノイズが4ビートを刻み、フィードバックしたようなパッド系のサウンドが全体を包み込んでいるため、これまでの曲と同様のハードな緊張感は持続しています。左チャンネルから聞こえるのはギターかと思いきや目一杯歪ませたウーリッツァーを叩き付けるように弾いているようです。サビからはベースにもディストーションがかかり、ジャズとノイズ系ロックのサウンドが見事に融合していきます。ひとつのイメージに収めることのできない、椎名林檎らしさが最も表れた曲ではないでしょうか。

この曲が不意にカットアウトしたかと思うと、間髪を入れずに耳障りなほど歪んだドラムが速いビートを刻み、11曲目の「病床パブリック」(ほんとに不思議なタイトルだなあ)へと続いていきます。ギターも爆発的に騒々しく激しい曲ですが、曲調自体は軽快でキャッチーだと思います。それにしてもこの曲のエフェクティブなボーカルは本当に強烈です。歪んでいるのはもちろんですが、発振寸前のようなフィードバック感と機械的に揺らしたピッチというか・・・もう私にはこれを表現するボキャブラリがありません。とにかくすごいです(笑)。

で、大ヒットシングルの12曲目「本能」です。歌詞とボーカル、そして例のプロモーションビデオのインパクトが強烈だったためか、相当に過激なイメージを持っていたのですが、実はこのアルバムの中では比較的おとなしいサウンドの曲と言えるでしょう。これはギターがだいぶ控えめにミックスされていることが大きいと思いますが、ピアノやストリングス系シンセが曲全体の雰囲気をやわらげているとも言えるでしょう。シングル発売を見越して、一般に受け入れられやすいサウンドに仕上げたのかもしれませんね。
とは言っても、刺激的なハイハットをはじめとする派手なドラムサウンドや、多彩なプレイの図太いベースなど、アルバム全体の雰囲気はきちんと維持しています。

ラスト13曲目「依存症」は、エレキギターのアルペジオとパッド系シンセをバックに歌う、おとなしいバラードという感じで始まりますが、泡のような効果音と何となくノイジーなサウンドに包まれて、このままでは終わらないゾという雰囲気が最初から漂っています。Bメロから入ってくるドラムはフィルターを閉じたようなこもったサウンドで、サビからの派手な展開を強調するのに一役買っている感じです。2コーラス目のドラムにはディレイがかかり、また独特の雰囲気をつくっています。
3分近くも続くエンディングはゆっくりゆっくりフェードアウトしていく・・・と思いきや途中でぷっつりとカットアウトします。これもなかなか意表をついたこのアルバムにふさわしい終わり方ですね。収録時間55分55秒は意図して狙ったものでしょう。


この『勝訴ストリップ』は、これでもかと言うくらい派手で過激で攻撃的なサウンドのアルバムですが、じっくりと聴き込むと実は細部にまでこだわって丁寧に作られていることがよくわかります。打ち込みを最小限に抑えたバンドサウンドを核としながらも、ありとあらゆる加工を施し、刺激的な椎名林檎の楽曲の世界観を的確に構築しているように思います。

このアグレッシブなサウンドは是非CDで体感してほしいものです。動画サイトなどの圧縮された音源では、製作者の意図した耳に痛いような硬くトンガッたサウンドや、ザラついたヤスリのような質感のサウンドが失われ、何かつるんとしたマイルドな音に聞こえてしまうような気がするんですよねえ。




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2012.03.28(Wed) 14:25 | まとめwoネタ速suru

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