Michael Jackson『THRILLER』

2012.04.27(Fri)


スリラースリラー
(2009/03/25)
マイケル・ジャクソン、クインシー・ジョーンズ 他

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ブログ開設2年目にして、サウンド・サイドはとんでもない暴挙に出ました。何を血迷ったのか、全世界で最も多くのセールスを記録したアルバム、マイケル・ジャクソンの『スリラー』をレビューに取り上げたのです。1982年に発表された、あらゆる意味においてまさにモンスター級のこのアルバムについて、今さら何を語ろうかという感じではありますが、半分びびりながらもサウンド・サイドなりのレビューを試みていこうと思います。
(怖いからビートルズとマイケル・ジャクソンにだけは手を出すまいと思っていたんですが)

まず1曲目「スタート・サムシング」は、力強い打ち込みのリズムから始まります。音像が大きく存在感のあるこのサウンドはどうやらリンドラムのようですね。右チャンネルのパーカッションはポウリーニョ・ダ・コスタがプレイするカバサでしょう。曲全体を通してリフレインされるキャッチーなベースラインはシンセベースだと思うのですが、ベーシストとしてルイス・ジョンソンがクレジットされているので、もしかしたらシンセベースとエレキベースのユニゾンなのかもしれません。このベースラインを基にした形でミュートギターのフレーズが入ってきます。このフレーズの前半は左チャンネルに、後半は中央に、分離して定位しています。音色も少し変えてあるでしょうか。同時に、1小節ごとにシンセパッドのコードが鳴り始めます。これらがこの曲のリズムの基本となり、そこに歯切れの良いブラスセクションや様々なパーカッション等が追加されつつ進行していきます。
ボーカルは基本的にコーラスとの掛け合いのようなフレーズになっていて、センター定位のタイトなボーカルと、左右に広げられた膨らみのあるコーラスの対比も独特のグルーヴ感を出しているように思います。ダンスミュージックであるためボーカルの音量は控えめですが、マイケル・ジャクソンのハイトーンのボーカルはオケに埋もれてしまうことがありません。
ギターソロの後のブレイク部分では、ブラックマヨネーズ小杉くんばりの「ヒーハー」というフレーズが印象的ですね(笑)。

オシャレな雰囲気でちょっとシャカタクを思わせるような2曲目「ベイビー・ビー・マイン」は生ドラムのフィルから始まりますが、オンビートでメインとなるスネアとバスドラムはやはりリンドラムのような気がします。ちょっと音量を抑えてミックスされたハイハットはンドゥグ・チャンクラーによる生演奏でしょう。その他、センスの良いカッティングやミュート奏法を聴かせてくれるギターとブラスセクション以外はすべてシンセサイザーによる演奏です。シンセサイザーには様々な音色が使われていますが、今の耳で聞くとやや古臭さが否めません。しかしながらその用い方にはセンスの良さを感じます。
後半のリフレインではちょっと気持ちの悪くなるような、不思議な転調のしかたをします。音楽理論的にはよくわからないのですが、一旦全音上がってから直後に半音下がり、トータルでは半音上がったことになる、という理屈なのでしょうか。不安定な音程感のシンセサイザーと相まって、一瞬ですが目眩を覚えるような効果を出しています。

3曲目はポール・マッカートニーとのデュエット曲「ガール・イズ・マイン」です。ゆったりとしたテンポのこの曲は打ち込みなしで超大物ミュージシャンがバックを務めています。曲の雰囲気のつくり方はさすがといった感じですね。後半ではセリフの掛け合いがありますが、二人の声質が大きく違うため、リスニング環境によっては声の太いポール・マッカートニーのほうが極端に大きな音に聞こえてしまうことがありそうです。私もかつて録音の仕事をしていた頃には大変苦労した記憶があります。ま、余談ですけどね。
セリフから歌に切り替わる瞬間、具体的にはポールの「I don't believe it」の「I」の部分の音の立ち上がり(ピーク感)は、何度聴いてもドキドキしてしまいます。

さて、4曲目からは怒濤のごとく「スリラー」「今夜はビート・イット」「ビリー・ジーン」といったパワフルなナンバーが続きます。こういった曲をアルバム全体に散りばめることなく、真ん中にぎゅっと集中させるセンスもすごいですね。

4曲目はそのプロモーションビデオの印象があまりにも強烈な「スリラー」ですが、この曲はいくつかの効果音から始まります。まず木製のドアが軋みつつ開く音は左右に目一杯広がっていて、このドアはすぐ目の前にある感じです。続いて風の音が聞こえ、木製の床の上を底の硬い革靴でゆっくり歩く足音が右から左へと移動していきます。そして左右に広かった雷鳴と、オオカミ(?)の遠吠えが右チャンネルから聞こえてきます。これら効果音のシチュエーションはまったくわかりません(笑)。なんとなくホラーっぽい音を集めてみました、という感じがしてしまいますね。
唐突に始まるリズムに乗って、徐々に音量が大きくなるシンセサイザーはスリル感たっぷりです。そしてあの有名なブラスのフレーズ、いつ聴いても本当に強烈なインパクトです。
リズムは1曲目と同様のリンドラムだと思いますが、こちらのバスドラムの方が重い音色でしょうか。印象的なフレーズのシンセベース(ムーグでしょうか)とともにどっしりと全体のサウンドを支えています。
左チャンネルから聞こえるペコペコしたミュートギターも気持ちがよくて好きですが、反対の右チャンネルから控えめに聞こえてくる様々な音色のシンセサイザーも非常に面白い効果を作り出しています。ぜひ注意して聴いてみてください。また、歌詞にあわせてドアの閉まる音やクリーチャーの声(かな?)などの効果音(シンセサイザーだと思います)が随所に挿入され、雰囲気を盛り上げています。

そしてこの曲の大きな特徴として、ホラー映画俳優のヴィンセント・プライスによるナレーションが挙げられるでしょう。パイプオルガン風のシンセサイザーをバックに、抜群の雰囲気を作り上げています。いい声ですねえ。その低音の魅力もさることながら、音の輪郭はくっきりとしていてちょっとやそっとのBGMには負けない、硬いサウンドです。まあ多少の音質補正はされているでしょうが。ラストの笑い声もいいですね。消え際の喉が鳴るような音など、本当にお見事と拍手を贈りたくなります。
ドアの開く音で始まったこの曲は、最後もドアの閉じる音で締め括られます。

重厚で迫力たっぷりのシンセサイザーサウンドと軽めのリズムボックス風のリズムで始まる5曲目は、このアルバムの中で最もキャッチーでパワフルな「今夜はビート・イット」です。どっしりと安定感のあるドラムはジェフ・ポーカロ、お馴染みのリフをプレイするぶっといギターサウンドはスティーブ・ルカサーで、緊張感のあるクリアトーンのカッティングがポール・ジャクソン・ジュニアでしょうか。ルカサーはベースもプレイしているようです。女性のスキャットのようなサウンドはシンクラヴィアなのかもしれません。イントロのシンセサイザーはオンビートの間奏でも効果的に登場してきます。
そしてこの曲の目玉は何と言ってもエディ・ヴァン・ヘイレンのギターソロですよね。最初から全開で弾きまくりのギタープレイは圧倒的な存在感ですが、音量的には最前面に出る事なく左チャンネルに定位して、右チャンネルのリフと同等のバランスになっています。ハードロックのギターをフィーチャーしてもこれはあくまでもビートが主体のダンスミュージックである、というスタンスが保たれているように思います。

6曲目の「ビリー・ジーン」は音像の大きなドラムサウンドと太いベースのリズムから始まります。ドラマーはこの曲もンドゥグ・チャンクラーとクレジットされていますが、このサウンドはやっぱりリンドラムじゃないかと思いますね。生のドラムは時折入ってくる重いタムのフィルがメインになっているような気がします。
この曲はリズム以外のあらゆるパートが不意に現れては消える、という構成になっていて、楽曲の持つ緊張感をアレンジが最大限にサポートしています。注意して聴くと、本当にいろいろな音が聞こえてきますよ。その中でも特に印象的なのは左チャンネルに聞こえる冷ややかなストリングスの下降フレーズでしょう。これはシンセサイザーではなく生のストリングスだと思いますが、立体感と艶のある素晴らしいサウンドだと思います。また、カッティングとミュートを駆使したギターのプレイとそのサウンドもカッコいいですね。

7曲目はようやくリラックスした雰囲気になる「ヒューマン・ネイチャー」で、この曲はTOTOのメンバーが中心となってバックを務めています。ギター、ドラム、パーカッション以外はすべてシンセサイザーによる演奏で、やはりシンセサイザーの音色はやや古い感じがしますが、演奏のセンスはさすがと言った感じで、特にパッド系シンセの使い方などはまさにお手本と言えるのではないでしょうか。コーラスにかけられたディレイが非常に効果的に聞こえます。

軽快なリズムとポール・ジャクソン・ジュニアのギターが印象的な8曲目「P.Y.T.」は、プロデューサーのクインシー・ジョーンズとシンガーのジェームス・イングラムの共作です。ダンサブルでありながらユーモラスでキュートな雰囲気ですね。コーラスや様々な楽器により楽しさ賑やかさが演出されています。ルイス・ジョンソンらしいチョッパーベースも(ここまできてやっと)存分に楽しむ事ができますね。後半のアニメ声のような倍速コーラスはイミュレーターによるものでしょうか。そういえばクレジットにはジェームス・イングラムがポータサウンドをプレイしているとあります(左チャンネルから聞こえるウラ打ちのコードかな?)。すごいですね、イミュレーターとポータサウンドの競演です(笑)。

ラスト9曲目は美しいメロディのバラード曲「レディ・イン・マイ・ライフ」です。落ち着いたフェンダーローズのサウンドを中心にエレガントな雰囲気のアンサンブルが心地よい楽曲ですね。イントロと間奏の、極端なポルタメントを伴ったキーボードのみがちょっとしたギミックとなっています。後半の盛り上がりではまたもやルイス・ジョンソンのチョッパーが聞けますが、盛りだくさんな内容のこのアルバムとしては案外あっさりとフェードアウトして終了、という感じがします。


マイケル・ジャクソンのアルバム『スリラー』の、時代背景や音楽的文化的な意義については今更私なんぞが語るまでもないでしょうし、語ることもできません。ただ、当時、すべてにおいて画期的であったアルバムであることは間違いないでしょうね。時代の最先端のサウンドを取り入れた音楽は、往々にして古びるのも早く、後に聴くと陳腐に思えるものが多いのですが、この『スリラー』はまったくそんな事はありません。それどころか、1982年にこのアルバムが発表されていなかったら現在の音楽はまるで違うものになっていたであろう、といっても過言ではないほど、後の音楽に多大な影響を与えたこともまた、間違いないと言えるでしょう。





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COMMENT

koji

No title

初めまして。
サウンド面からのレビュー、普段そういう音楽の聴き方をしない(というかできないです笑)ので、とても新鮮で、いつも楽しく読ませてもらってます。
特に、自分の知っているCDのレビューは本当に興味深いです!
マイケルジャクソンは実はほとんど聴いたことがないのですが、CDを一度聴いてみて、改めてこの記事を読むという楽しみ方をしてみたくなりました笑

2012.04.29(Sun) 22:45 | URL | EDIT

さはんじ

Re: No title

>kojiさん
コメントありがとうございます。

そう言って頂いて、本当に嬉しいです。頑張ってブログを続けてきた甲斐がありました(^^)
音楽を聴くときに、ちょっとだけでもサウンドを気にしてくださったら、
このブログがそのきっかけになれたとしたら、こんなに嬉しいことはありません。
本当にありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。

2012.04.29(Sun) 23:48 | URL | EDIT

諸星輝々

No title

さはんじさん こんばんわ*

スリラー
この曲のナレーション ホラー映画俳優のヴィンセント・プライス
もしかして あの フライトナイトで映画の中の映画"バンパイア・キラー"の役になって出てた人でしょうか  違ってるかもしれませんが・・

このPVを初めて観たときは全身が総毛立つような、まさに鳥肌がたつ・・そんな感覚でしたね。
あの振り付け 曲 PVの構成  どれをとっても 曲はもちろんPV史上に残る名作だなってあらためて感じます。

2012.05.08(Tue) 21:23 | URL | EDIT

さはんじ

Re: No title

>諸星輝々さん
コメントありがとうございます。

私、ホラー映画が苦手なので(前にどこかの記事にも書いたことがあったかな?)疎いんですが、ちょっと調べてみました。映画「フライトナイト」のバンパイア・キラーは、ロディ・マクドウォールという俳優さんのようです。役名が「ピーター・ヴィンセント」なので勘違いされたのかもしれませんね。ただ、この役名はヴィンセント・プライスと、同じくホラー映画俳優のピーター・カッシングの名前を合わせてつけられたものらしいですよ。
ピーター・カッシングというと「スターウォーズ」を最初に連想してしまう私には、本当にホラー映画を語る資格なんぞこれっぽっちもありませんね(笑)。

「スリラー」のPVは、もうほとんど短編映画並みのクオリティですよね。そもそも音楽をプロモーションするためのビデオのはずなのに、「スリラー」といえば曲よりもPVのイメージのほうが強かったりします。

2012.05.08(Tue) 22:50 | URL | EDIT

JUN

素晴らしいレビューです

はじめまして。
マイケルの作品をここまで「音」にこだわって書かれたレビューは少なくともブログでは他に知りません。
改めて発見し、勉強になる部分がたくさんあって、マイケルファンとしてこのページを大切に保存させていただきます。

「ベビー・ビー・マイン」の分析。秀逸で特に印象に残ります。
マイケル作品では「BAD」が25周年記念盤がもうじきリリースされるそうですので、ぜひ「BAD」もレビューされることを期待しております(この作品も音的にすごい作品だと思っています)。

これからも時折お邪魔させていただきます。


2012.05.21(Mon) 08:40 | URL | EDIT

さはんじ

Re: 素晴らしいレビューです

>JUNさん
コメントありがとうございます。

記事の冒頭にも書いている通り、半分びびりながら(笑)のレビューだったのですが、好意的なコメントを頂き、大変嬉しく思っています。特に、レビュー記事を書いている者にとって、そのアーティストのファンから好評価を頂く事ほど有り難い事はありません。
本当にありがとうございます!

今後ともよろしくお願いいたします。

2012.05.21(Mon) 15:55 | URL | EDIT

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