Michel Camilo『ONE MORE ONCE』

2012.05.24(Thu)


ワン・モア・ワンスワン・モア・ワンス
(2010/10/13)
ミシェル・カミロ

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長く寒い冬が終わっても、どこかすっきりとしない気候が続いていましたが、ここに来てようやく過ごしやすい陽気になってきたように思います。ここらで夏を先取り、スカッと抜けるようなラテンジャズなんていかがでしょう。
そこで今回は、ドミニカ共和国出身の超絶技巧ピアニスト、ミシェル・カミロが1994年に発表したアルバム『ワン・モア・ワンス』を選んでみました。このアルバムは、それまでピアノトリオのスタイルが中心だったミシェル・カミロの代表曲を、大編成ホーンセクションのビッグバンド・アレンジで再録音した(新曲2曲を含む)セルフカバー・アルバムです。
このゴージャスかつパワフルなサウンドで、不景気で混沌とした世相や日々のストレスを吹き飛ばしてやりましょう(笑)。

この『ワン・モア・ワンス』は、曲ごとに参加ミュージシャンが若干入れ替わっている場合がありますが、全体にほぼ共通したサウンド傾向のアルバムであると言えるでしょう。

メイン楽器であるミシェル・カミロのピアノはもちろん前面に位置していて、左右のスピーカーの間に大きく広がっているような、リアルなサウンドです。ドラムセットも同様に大きく広がっていて、特にタムを多用したフィルでは豊かな胴鳴りのサウンドが目の前を左右に駆け回るようなイメージです。これは私の好きなドラムサウンドで、嬉しくなってしまいますねえ。スネアドラムはタイトで力強く、響き線よりもドラムヘッドの鳴りの割合が大きい感じです。ハイハットやシンバルはアタック感よりもシズル感を強調したような、どちらかと言えば柔らかい感じの(シャーンと鳴るような)サウンドで、バスドラムもアタックよりも胴鳴りを強調した太く柔らかいサウンドです。ドラマーはクリフ・アーモンドがメインで、3曲だけマーヴィン・スミッティ・スミスが叩いています。

縦横無尽に動き回る図太いベースはアンソニー・ジャクソンです。といえばご存知の方は容易にサウンドが思い浮かぶでしょう。彼の6弦ベース(いつもコントラバス・ギターとクレジットされていますね)はそれほど個性的です。ミシェル・カミロ・トリオではお馴染みのベーシストで、このアルバムでも本領を発揮しています。

そしてこのアルバムを支えるもうひとつの主役はビッグバンド・スタイルのホーンセクションです。ミシェル・カミロの速いパッセージをビシッと再現する見事なホーンセクションは、これもやはり左右のスピーカーの間にずらりと並んでいるような広がりのあるサウンドイメージです。全体に華やかでカラフルな雰囲気を作り出していますね。個々の楽器も非常にクリアで艶のあるサウンドで、その金属の質感まで感じ取れそうです。

全体に音圧感があり、音量差にドキドキするようなサウンドというよりは、ふっと音量が下がった時やブレイク部分でそのダイナミックレンジを感じるようなサウンド構成になっていると思います。これはどんなリスニング環境でも聴きやすいサウンドだと言えるでしょうね。

さて、それでは1曲ずつ聴いていきましょう。
まず1曲目はいきなり新曲、そして表題曲の「ワン・モア・ワンス」です。ミシェル・カミロのピアノの呼びかけに応えるようにアフロ・キューバンなリズムが始まります。明るく小気味良いパーカッションが印象的ですね。一瞬のブレイクの後にダイナミックなホーンセクションのテーマが入ってきます。何気ないように見えて、このテーマもかなり速いフレーズの組み合わせで構成されていますよ。陽気なテナーサックスのソロのバックで歯切れの良いカッティングをプレイしているチャック・ローブのギターは、時々ワウワウを効かせたフレーズでサックスソロに茶々を入れています(笑)。

2曲目はマンハッタン・トランスファーがアルバム『アメリカン・ポップ』の中でカバーした事でも有名な、ミシェル・カミロの代表曲「ホワイ・ノット!」です。…あれれ、たしかオリジナルのタイトルは「Why not?」だったはずなんだけど…、いつの間にクエスチョンマークが感嘆符に変わったのかな?(笑)
オリジナルバージョンはピアノトリオでの演奏ですが、このアルバムでは、ミシェル・カミロのプレイするピアノの1音1音を管楽器に置き換えたような、ゴージャスでダイナミックなアレンジになっています。このアレンジを聴いてしまうと、オリジナルバージョンがショボく聞こえてしまう危険性がありますね。底抜けに明るい曲調に、はじけるようなリズム、特にクリフ・アーモンドの弾力のある豊かなロータムの音色が印象的です。キメキメのシャープなフレーズ満載の曲ですが、サウンドは尖りすぎず適度にマイルドで心地良い感じです。ピアノソロの後半ではミシェル・カミロの真骨頂とも言うべきパーカッシブで速射砲のようなフレーズを聴く事ができます。

3曲目は唯一のピアノソロ、「決意」です。これも新曲ですね。ゆったりとした曲調を奏でるピアノは左右のスピーカーの間に大きく広がり、硬過ぎず、柔らか過ぎず、響板やフレームの鳴りまでも聴き取れそうな、本当にリアルなサウンドです。

このピアノが鳴り止まないうちに忍び込んでくるサウンドは、パーカッション奏者によるゴングでしょうか。くぐもったリバースサウンドのような低音はシンセサイザーみたいに聞こえますが、どうやって演奏しているのでしょう。さらに様々なパーカッション類(鳥の鳴き声のような音もします)やミステリアスなベースのフレーズが入ってきて、4曲目「サンドリン組曲パート3」へと続いていきます。
イントロに続いて、どっしりとしたミディアムテンポのリズムにシンプルなブラスのフレーズが印象的なセクションが始まります。ここでは低音ブラスのビビッたような振動をじっくりと味わいたいですね。生楽器は本当に表情豊かな音色表現をしてくれます。その後はこれぞラテンジャズといった感じのダンサブルなサルサ・ビートへと突入していきます。テナーサックスとピアノのソロ、そしてホーンセクションのダイナミックなテーマ、パーカッション等、聴き所満載のこの曲は目一杯盛り上がったところでまたイントロのフレーズに戻って終わります。

5曲目はこれまでよりもやや重いリズムが特徴的な「ドリームライト」です。柔らかい音色のソプラノサックスがテーマを演奏し、続くチャック・ローブのギターソロは空間系のエフェクトがたっぷりと乗っています。その後ソロはピアノ、ソプラノサックスへと移っていきますが、そのバックで自由に動き回るアンソニー・ジャクソンのベースにも注目したいところです。どっしりと重量感のあるドラムはマーヴィン・スミッティ・スミス。余裕のあるプレイに貫禄を感じますね。

一転してまた明るい曲調の6曲目「ジャスト・キディング」です。この曲もまた歯切れの良いホーンセクションが印象的です。スネアの音は「ホワイ・ノット!」よりもやや重めで力強さが増しているように思います。ティンバレスやアゴゴ等のパーカッションも陽気な雰囲気を作っていますね。パララパララと速いフレーズを吹きまくるアルトサックス・ソロの導入部では音像が右に左にと素早く揺れていて、エンジニアも遊び心たっぷりに楽しんでいるなあと、聴いているこちらも嬉しくなってきます。ピアノソロの後にはコンガのソロもあり、この演奏も素晴らしいですよ。

7曲目「カリベ」で演奏はさらにヒートアップしていきます。この曲は何と言っても超絶技巧のオンパレードという感じのピアノソロが最大の聴き所でしょう。まさに圧巻という感じです。後半のピアノとコンガの掛け合いもスリリングですね。

8曲目はゆったりとした明るいピアノと、南国の雰囲気を醸し出すパーカッションのイントロが特徴的な「サンタン」です。このパーカッション類にかけられた深い深い残響が実にいい感じです。「サンドリン組曲パート3」とはまた違った雰囲気で、鳴いている鳥の種類も違うみたいです(本当の鳴き声ではなく、すべてパーカッション奏者による演奏ですよ、念のため)。フリーインプロビゼーションのようなピアノ&ベースのゆったりした演奏と、歯切れよく押しの強いテーマとの対比が面白い楽曲です。

自由なアドリブプレイのようなピアノで始まる9曲目「オン・ジ・アザー・ハンド」の低音ホーンセクションが入ってくる部分、この広がり感と迫力あるレンジ感の気持ちよさは、ビッグバンドスタイルならではでしょうね。マーヴィン・スミッティ・スミスのドラムは、やっぱりクリフ・アーモンドよりも太く重いサウンドで、楽曲の安定感が増したように感じます。多彩な表情を見せる陽気なトランペットソロと、やや力の抜けた軽快なピアノソロもいい感じです。

ラスト10曲目「ノット・イェット」は、オリジナルバージョンよりも重厚で堂々としたリズムの楽曲に仕上がっています。地味にバックを支えるチャック・ローブのディストーションギターは、ビッグバンドのスタイルとしてはかなり斬新なのではないでしょうか。ラストの曲にふさわしく、ホーンセクションは全開で大迫力です。後半に展開される、左チャンネルのアルトサックスと右チャンネルのテナーサックスのソロバトルと、それを後押しするバンド全体のアンサンブルも聴き応えたっぷりです。大きく盛り上がって、余韻を与えずスパッと終わる潔さもいいですね。


このアルバム『ワン・モア・ワンス』はキャッチーな曲調の楽曲がそろっているので、ビッグバンドスタイルのラテンジャズを聞き慣れていない人でも楽しめるのではないかと思います。じっくりと高度な演奏技術を楽しむのもよし、ダイナミックなサウンドを大音量で楽しむのもよし、気軽にドライブや家事のBGMとして楽しむのもまたよし、と、オールラウンドに楽しめる夏向きのアルバムだと思います。
私としては超絶技巧満載の曲「オン・ファイア」あたりを、このビッグバンドのスタイルで演奏したらどうなるのか聴いてみたかったのですが、それは叶いませんでしたね。
というか、それは無理?(笑)


    


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COMMENT

PATTI

キャーキャー

ンモォ~!さはんじさん!これをご存知で?昔やったです、
マントラのWhy Not!
そのつながりで、ピアノトリオ版も、
これも持ってます!もらったんだけど。
めっちゃええですよね。マントラもやってない、このまんまのwhy not?を声でやりたいものです。誰も賛同してくれませんけど。あ、わたしのとこ、過去記事で上げてます。また探しときますね。

2012.05.24(Thu) 22:16 | URL | EDIT

PATTI

ジオヤーさん、ありました!
マントラのと、私の26年前のが聞けますよ(^-^)/
http://blog.livedoor.jp/pattialice22/lite/archives/1541899.html
リンクできますかしら、I hope so…

2012.05.24(Thu) 23:06 | URL | EDIT

さはんじ

Re: キャーキャー

>PATTIさん
コメントありがとうございます。

ミシェル・カミロ、好きなんですよ。めっちゃええです。
もうずいぶん前になりますが、ライブも見に行ったことありますよん。

リンクばっちりです。演奏聴かせていただきました。
わーお、すごいっすねえ。滅多なバンドじゃWhy Not!なんてできませんよ。
恐れ入りました、完全に脱帽です。

しかし、私の名前を間違えるほど興奮しなくてもいいんじゃ? (^^;

2012.05.25(Fri) 10:25 | URL | EDIT

PATTI

さはんじさん、ごめんなさい!

なんでだろう?恐らく、携帯でコメント書いてるから打ち辛くて
予測変換で出てきたのをうっかり選択しちゃったのでしょう。
前にも一度、よそでやってしまいました。その時もなぜか、ジオヤーさんでした。
これ以上言うとどんどん墓穴を掘る事になりそう^^;
前の記事へのコメントを今、PCで書いてるところデーす!大丈夫。
もう間違ってないよ(^ー^)ノ

2012.05.25(Fri) 10:42 | URL | EDIT

さはんじ

Re:

>PATTIさん

了解です。気にしてませんよ〜(^^)
ちょっとツッコんでみたくなっただけです、えへへ。

2012.05.25(Fri) 22:36 | URL | EDIT

千坂あつこ

あけましておめでとうございます

さはんじさん、ブログ更新しました。
その中であげてるライブスケジュール、3/1のオーケストラで、Why Not!を歌わせていただくことになりました。
はりきってます\(^o^)/

2014.01.10(Fri) 06:37 | URL | EDIT

さはんじ

Re: あけましておめでとうございます

>千坂あつこさん
コメントありがとうございます。

ををっ、今年も全開ですね(^^)
もしも録音されたら聴かせていただきたいです>Why Not!
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

2014.01.10(Fri) 17:03 | URL | EDIT

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