およそ1ヶ月半ぶりのCDレビューです。本当は8月中に書き上げたかったのですが、もう9月も後半となってしまい、その結果なんとも季節外れのアルバムチョイスになってしまいました。まあ、これも私らしくていいかなと、開き直ってしまいましょう。何より来年の夏まで記事をキープしておくなんて、そんな悠長なこと私にはできません(笑)
ということで、今回のレビューは1979年に発表され大ヒットしたスパイロ・ジャイラのセカンドアルバム『モーニング・ダンス』です。フュージョンファンでこのアルバムを知らない人はいないと言っても良いくらいに(ホントはダメです)超有名な名盤ですね。リーダーであるジェイ・ベッケンスタインの爽やかなサックスの音色が心地よい、トロピカルなフュージョンサウンドは夏にぴったりなのです。…ああ、哀しい(笑)
かつてスパイロ・ジャイラはライブパフォーマンスとレコーディングを別の形態で行う、ジャズ/フュージョンとしては珍しいグループでした。ライブはもちろんオリジナルメンバーで行いますが、レコーディングは多くのゲストミュージシャンを招いて、というよりも作曲を担当する主要なメンバー以外はほとんど一流セッションミュージシャンがプレイしているのです。これはファンの間でも賛否両論なのですが、アルバムのセールスとバンドの知名度アップには大成功の戦略(?)だったと言えるでしょう。そのせいか主要メンバー以外の入れ替わりが多い事も事実ですが、1975年の結成以来、現在でも第一線で活動を続ける息の長いバンドであるのも、もしかしたらこのおかげなのかもしれません。
このアルバム『モーニング・ダンス』にも多くの有名ミュージシャンが参加しています。
さて、1曲目はスパイロ・ジャイラの代表曲でもある「モーニング・ダンス」です。スチールドラムとアコースティックギターのカッティングが南国の雰囲気を醸し出す軽いタッチのイントロは、適度に同じフレーズが繰り返されて、まるで主役であるリード楽器の登場を期待させるかのようです。そこに満を持して入ってくるのが豊かな音色のアルトサックスで、ボリューム感もリバーブもたっぷりの、まさに主役登場!という雰囲気ですね。爽やかで心地良いメロディは世界中の音楽ファンを虜にしたのも頷けるというものです。左チャンネルから聞こえる堅実なアコースティックギターと、左チャンネルで小粋な(笑)フレーズをプレイするエレキギターは、どちらもジョン・トロペイだそうですよ。テーマの後はマリンバとエレキピアノがソロを受け継ぎますが、どちらも技巧に走ることなく雰囲気重視の、どちらかといえばゆったりとした演奏になっています。そして再び主役登場、アルトサックスが先ほどと同じテーマを演奏し、その後は半音転調して(でいいのかな?)高揚感を演出しつつアルトサックスのアドリブに突入します。これもテーマの爽やかな雰囲気を引き継いだナイスなソロですね。アドリブプレイは嫌味になることのない、程よい長さでフェードアウトしていき、この大ヒット曲は終了となります。
ファンキーなエレキギターのカッティングから始まる2曲目「ジュビリー」は、スティーブ・ジョーダンのドラムとウィル・リーのベースをフィーチャーしたファンクチューンです。ブラスセクションのフレーズも歯切れよくカッコいい感じですが、アルトサックスが入ってくると途端にスパイロ・ジャイラのサウンドになってしまいますね。ジェイ・ベッケンスタインのサックスのオリジナリティは素晴らしいものがあります。テーマ後の明るいブラスセクションのリフレインは、トップノートにあるフルートが爽やかさを感じさせてくれます。続くソロプレイはまるでクリーチャーの鳴き声のような不思議なサウンドです。はじめはエフェクティブなギターソロだと思ったのですが、これはどうやらランディ・ブレッカーのトランペットソロらしいです。エフェクトがかかりすぎてトランペットらしさなんかどこにもありませんね。ギミックとしては面白いかもしれませんが、やりすぎカナ?
その後は短いベースの見せ場がありますが、そこでもこのクリーチャーがちょっかいを出しています(笑)。ラストはやっぱりアルトサックスのアドリブでフェードアウトしていきます。
3曲目の「ラスル」は美しく情緒的なバラード曲です。後半に盛り上がるとしても、出だしの音量は低すぎるのではないでしょうか(笑)。ストリングスとピアノの美しさが映えるイントロにソプラノサックスのテーマが入ってきて、アドリブプレイへと移っていきますが、途中でソプラノサックスがいきなりアルトサックスに替わってしまうのはなんだか唐突な感じがしますね。この後、フレンチホルンとストリングスが曲を盛り上げて、ふっとイントロの静かな雰囲気に戻るのですが、この換わり目はストリングスが余韻もなくプツッと途切れています。この不自然さは、録音テープを切り貼り編集したとみて間違いないでしょう。うーん、狙いだとしても残念ですな。
続くソプラノサックスソロの途中から(やっと)ボリュームがどーんと上がります。この盛り上がりにしても、楽器の入れ替わりにしても、ちょっと作為的すぎるかな〜という気がしてしまう曲なのでした(笑)。
4曲目「ソング・フォー・ローレイン」のイントロのエレキピアノはいかにもスパイロ・ジャイラといった雰囲気で嬉しくなってしまいますね。ミュートの効いたギターもユーモラスで、タイトなサウンドのドラムは硬くて軽いスネアの音色が印象的です。ソプラノサックスのややカン高いようなテーマの後はエレキピアノのソロになりますが、これは右手と左手のオクターブユニゾンでしょうか。続いて4ビートのリズムに変わるとジャジーでややペラッとしたような(どんな表現なんだ)音色のアコースティックピアノのソロが短く挿入され、またイントロに戻っていきます。この換わり目は自然でいい感じですね。短いテーマの後、ソプラノサックスのアドリブになりますが、これも程なくフェードアウトしていきます。
アナログレコードではA面ラストとなる5曲目「スターバースト」は、かなりアップテンポでファンキーなナンバーです。スティーブ・ジョーダンのドラムはややこもったようなタイトな音色ですが演奏は実にシャープで、特にハイハットとスネアのコンビネーションが生み出すグルーヴ感はさすがです。テナーサックスのテーマが終わってエレキピアノのソロになるとスネアのリバーブがぐっと深くなるのがわかると思います。続くギターソロはジョン・トロペイらしさ全開の素晴らしいソロで大好きです。ティンバレスソロの後半から入ってくるエレキピアノの低音のリフは、ダブリングで左右に広げてあるのでしょうね、なかなかの迫力でいい感じです。このリフにブラスセクションが重なり、シンセサイザーやリズムセクションが楽曲をこれでもかと盛り上げたところで、マイケル・ブレッカーのテナーサックスソロになります。艶やかで明るいジェイ・ベッケンスタインのサックスに対して、マイケル・ブレッカーは枯れた音色でシリアスなソロを展開します。リード奏者はとかく自分でアドリブをしたがるものですが(失礼)、一番オイシイ所を譲るとは、ジェイ・ベッケンスタインも太っ腹ですなあ(笑)。
シンセサイザーとパーカッションによるエキゾチックなイントロの6曲目「ヘリオポリス」は、ブラスセクションのリフが印象的なミディアムテンポのファンクチューンです。右チャンネルのやや歪んだエレキギターと、左チャンネルのマリンバ(っぽい音色のシンセかなあ)のリフの対比が面白いと思います。このギターには何かフランジャーのようなエフェクトもかかっています。タイトで力強いスネアのサウンドが引き立っていますね。ファンキーなリフで構成されたブロックと、テナーサックスによるメロウなテーマのブロックが交互に展開され、シリアスで緊張感のあるエレキピアノのソロに移っていき、短いパーカッションとシンセサイザーのソロに続いてまたもやマイケル・ブレッカーの登場です。このソロの中ではテーマ部分もちらっと演奏して、ジェイ・ベッケンスタインに敬意を表しているのかな、と思えるような部分もあり、ニヤリとしてしまいます。
7曲目はトロピカルでリラックスした雰囲気の「イット・ダズント・マター」です。この曲ではテーマをエレキギターが担当していますね。スネアのリバーブがいい感じです。フェイザーのようなエフェクトのかかったコーラス(人の声ですよん、エフェクターの名前じゃありません)が独特の雰囲気をつくっていますが、私としては加工しないナチュラルなサウンドのほうが好きかもしれません。リバーブのたっぷり乗ったソプラノサックスの心地良いソロに続いて、エレキギターがテーマをフェイクしつつアドリブに入っていきます。途中でギターの音色が少し細い感じに変わるような気がするのですが、これはピックアップを切り替えているのかもしれませんね。
8曲目はルーベンス・バッシーニのスピーディーなボンゴが印象的な「リトル・リンダ」です。アルトサックスによるテーマはハッピーなジャズを感じさせる、懐かしい雰囲気ですね(30年以上前のアルバムを聴いて懐かしいというのもどうかとは思いますが)。アコースティックピアノのソロはあまり響きが感じられないので、これはアップライトピアノのような気がします。このあたりにもノスタルジックな雰囲気を出そうという狙いがあるのかもしれません。続くビブラフォンのソロは、明るくキュートで澄んだサウンドがいい感じです。最後はアルトサックスのテーマに戻りますが、例によって少しずつフェイクしていき、アドリブに突入して盛り上がります。
ラスト9曲目は「エンド・オブ・ロマンティシズム」です。すごいタイトルですが、その名に違わずいきなり最初からテンションの高い演奏が始まります。音圧感たっぷりのブラスセクションのリフに続いてスペイシーなシンセサイザーのソロ、その後またブラスのリフになり今度はどう展開するのかと思いきや、なんとこのリフが徐々にトーンダウンしてハーフテンポになってしまいます。あらら、と思う間もなく雄大なフレンチホルンのフレーズをブリッジにしてエレキギターのソロになり、そこからまた力強いブラスとともに倍のテンポへ、そしてハーフテンポへと目まぐるしく展開する複雑な楽曲構成が徐々に姿を現してきます。各楽器がスリリングな演奏を繰り広げる中でも、ロングディレイと深いリバーブを伴った緊張感のあるソプラノサックスソロは圧巻ですね。曲のラストはリフがフェイクしていき、シンセサイザーのベンドアップ(?)と共にまるで爆発するかのように壮絶なエンディングを迎えます。最後に残るフィードバックエコーが本当に爆発の後のように感じられました。
このアルバムは、大ヒットした表題曲「モーニング・ダンス」のイメージがあまりにも強いため、明るく爽やかで気持ちの良いアルバムであるという印象を持っている人が多いと思いますが、じっくり聴いてみると楽曲自体は結構ハードなフュージョンが多かったりします。、特にラストの「エンド・オブ・ロマンティシズム」などはスパイロ・ジャイラというバンドの音楽性の幅広さ・奥深さを強く感じさせる楽曲ですね。
長年続いているバンドは当然音楽性も成熟していくもので、もちろんスパイロ・ジャイラも例外ではありません。しかし、記事の中でも触れていますが、ジェイ・ベッケンスタインの明るいトーンのサックスには強烈な個性があります。なんだかんだと言ってもこの人のいる限り、いつの時代になってもスパイロ・ジャイラ・サウンドといえばこの名盤『モーニング・ダンス』のサウンドを思い浮かべる人が多いのは、仕方のないことなのかもしれません。
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