尾崎豊『十七歳の地図』

2012.10.25(Thu)


十七歳の地図十七歳の地図
(1991/05/15)
尾崎豊

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今回のCDレビューは1983年に発表された尾崎豊のファーストアルバム『十七歳の地図』を選んでみました。当時このアルバムからは3曲がシングルカットされましたが、さらに90年代になって「I LOVE YOU」と「OH MY LITTLE GIRL」がリリースされ、結果的にはアルバム収録の10曲中5曲、B面まで含めるとなんと7曲がシングル発売されています。この『十七歳の地図』はデビュー作にしてまるでベスト盤のような、尾崎豊の代表的アルバムと言えるでしょう。

18歳でデビューし、26歳という若さでこの世を去った尾崎豊の楽曲は当時の若者の共感を呼び、社会現象ともなりました。現在の30代・40代の人の中には尾崎豊に何らかの影響を受けたという人も少なくないでしょう。が、様々なメディアや場所で多くの人々が論じているメッセージ性の強い歌詞についてはさておき、ここではいつものようにサウンド・サイドからこのアルバムをレビューしていきたいと思います。

アルバム全体としては、80年代前半のポップスで大流行したいわゆるドンシャリ(中音域に比べて、低音・高音がより目立つサウンド構成)のサウンドですね。ボーカルは大きめで深めのリバーブがたっぷりとかかり、サウンドバランスとしてはロックというよりもポップス寄りであると言えるでしょう。メッセージ色の濃い激しい楽曲では少々アンバランスな印象を受けますが、当時のメジャーなJ-POPシーンではまだハードなロックサウンドに確たる市民権がなかったような記憶もあるので、これは致し方のない事なのでしょうし、もしかしたらこのアンバランスさが若者たちにウケたのかもしれません。

さて、まずは1曲目「街の風景」です。いきなりイントロからドンシャリ全開のサウンドですね。ボーカルが入ってくるまでは、おそらくバスドラムにフロアタムを大きめにオーバーダブしているのでしょう、相当に低音を強調しています。ディレイとコーラス系のエフェクトがかかったエレキギターとキーボードはかなりの高音域で、太いながらもアタックの高域が強調されたスネアドラムとともにリバーブがしっかりと乗っています。シンバルはアタック感のないシャ〜ンというぼやけたようなサウンドですね。すっぽりと空いた中音域に入ってくるボーカルの音量はかなり大きめで、左右に大きく広がったリバーブが深くかかっています。
Aメロ部分のエレキギターのアルペジオにはモヤモヤとした空間系エフェクトがかかっていて、これは歌詞の内容を反映したアレンジの一部なのでしょう。やや前向きな内容の歌詞になるBメロ部分からは、それまで一切聞こえなかったハイハットが鳴りだして、シャキッとした光が差し込むような感じがします。全体の雰囲気をガラッと変えるのではなく、細かく変化していくアレンジ上の演出ですね。

2曲目「はじまりさえ歌えない」は、「街の風景」によく似たサウンド構成になっていますが、スネアは柔らかめで、タム類もより豊かな音色になっています。クレジットにはElectric Pianoと表記されていますが、フェンダーローズのような音色ではなく、よりアコースティックピアノに近い硬めのサウンドがコードを鳴らしていて(ヤマハのCPシリーズでしょうか)、このツヤのような音色が明るめの雰囲気を作っているように思います。がなるようなシャウト気味のボーカルとギターソロだけがロックのテイストを出そうと頑張っているような、ややちぐはぐな印象を受けるのは、30年近く経った今の耳で聴いているからでしょうか。

3曲目は今や尾崎豊の代表曲といっても過言ではない「I LOVE YOU」です。この曲は多くのアーティストからリスペクトされ、カバーバージョンも数多く存在する名曲ですね。私はテレビドラマ「北の国から'87 初恋」で使用されたのが強く印象に残っています。あの時の横山めぐみは本当に可愛かったな〜。

さて、バラードの王道とも言えるようなこの曲でも、前曲「はじまりさえ歌えない」と同様に、生ピアノのような音色のエレキピアノ(うー、面倒臭いので、以下ピアノと表記します)が活躍し、部分的にシンセサイザーによるエレピ系サウンド(ああ、ややこしいっ)とユニゾンしてきらびやかな雰囲気を作っています。が、このピアノの打弦部分で発生するノイズでしょうか(ボーカルのリップノイズにも似た音で、どちらなのかはっきりとはわかりませんが)、サウンドの薄い前半部分でプチプチと頻繁に聞こえるので、気になってしまいます。
ノイズといえば、「ふたり」という歌詞の部分でちょっとマイクを吹いてしまったようで、かすかにポップノイズが聞こえています。
バスドラムとスネアはタイトで硬い音ですが、ベースはとても太いサウンドですね。長めに鳴らしたベースはだんだん音量が上がっていきますが、これはコンプレッサーのリリースタイムの設定で作っている効果なのでしょうか、ずーんと迫ってくるような低音にはとても迫力が感じられます。

4曲目「ハイスクールRock'n'Roll」は、押し出しの強いバスドラムと太く重いベースがどっしりと低域を支え、ギターやキーボード、パーカッションがシャリシャリと高域の騒々しさを演出する、これも典型的なドンシャリサウンドのナンバーですね。イントロのサックスはギターと、もしかしたらキーボードもユニゾンしているのか、ちょっと変わった音色になっています。ボーカルはテンションの上がった、ちょっとキュートな(?)スタイルで、これは高校生らしさを出そうとしているのでしょうか。
センター定位のバスドラムと、残響とともに左右に大きく広がったギターのカッティングが交互に繰り返され、躍動的で面白い効果が出ています。高域を強調したような硬いハイハットはアコースティックギターと混ざり合い判然としませんが、サックスソロの後に出てくるハイハット風のサウンドはパーカッションによるものでしょう。後半になるに従って、色々なパーカッションやキーボードの音が追加され、騒々しさ(?)は最高潮となりフェードアウトしていきます。HOUND DOGの大友康平がコーラスに参加し、盛り上がりに一役買っていますが、うーん、言われなきゃわかんないなあ(笑)。

5曲目は、このアルバムと同時に発売された尾崎豊のデビューシングル「15の夜」です。ディレイのかかったグロッケンシュピールとピアノのアルペジオに続いて、力強いリズムがフレーズを後押しするイントロは、これからドラマチックな曲が始まることを暗示しているかのようですね。尾崎豊の太く甘いボーカルが楽曲にとてもマッチしていて、思わず引き込まれてしまいそうです。哀愁感のあるオルガンや胸に迫るような太いベース、若者のキラキラした輝きを具現化したようなグロッケンシュピールのサウンド等がとても効果的に配置されているアレンジも素晴らしいと思います。
サビからはこれまでの曲にはなかったような重いスネアドラムが響き、オーバードライブギターがパワーコードを刻んでヘビーな雰囲気を作っていきますが、さほど派手さはありません。あくまでもボーカルを支えるスタンスを保っているようです。また、サックスソロのフレーズも勢いはあるもののどこかノスタルジックなにおいがしませんか(笑)。尾崎豊のキャラクター、楽曲、アレンジ、演奏まですべてが絶妙に組み合わされた名曲ですね。

さて、6曲目はアルバムの表題曲「十七歳の地図」です。このアルバムの中で最もパワフルで疾走感あふれるこの曲のサウンドは、ブルース・スプリングスティーンを彷彿とさせますね。硬い音色のバスドラムとスネアが刺激的なビートを作り出していますが、シンバル類はとても控えめで、ハイハットに至ってはまったく聞こえていません。唯一、「くわえ煙草の Seventeen's map」という歌詞の部分だけ微かに聞こえてくるように思うのですが、この意図やいかに?(笑) 
吠えるようにシャウト気味のボーカルにもたっぷりと深いリバーブがかかり、これはちょっと雰囲気と合わないのではないかと思うのは私だけでしょうか。ボーカルが主役になりすぎてバッキングとの一体感が危うくなりそうなところを、パワフルなスネアドラムのサウンドがかろうじてつなぎ止めているような気がします。 

間髪を入れずに始まる7曲目「愛の消えた街」は、「十七歳の地図」よりもテンポを落としてはいるものの、こちらもとても力強い曲です。この、ノリを引き継ぐような曲の転換はなかなか好きですね。ドラムをはじめとする全体的なサウンドもよく似ていて、まるでライブ演奏のような雰囲気も感じられます。この曲もパワフルなスネアドラムが印象的で、サビではさらに4拍目のスネアに刺激的な音色のシモンズドラムが重なり、力強さに拍車をかけています。

8曲目はラブバラード「OH MY LITTLE GIRL」です。サウンドの雰囲気は「I LOVE YOU」によく似ていますが、こちらはアコースティックピアノと生のストリングスをフィーチャーして、より優しく安定した雰囲気になっています。ピアノのみのイントロではかすかにペダルを踏む音が聞こえていますよ。間奏ではギターシンセサイザーが独特の世界を作り出しています。また、エンディングではグラスハープのような音色のシンセサイザーがソロをとりますが、こちらはキーボードによる演奏ではないかと思います。

フェードアウトしていく「OH MY LITTLE GIRL」に聞き入っていると、いきなり驚かすかのように強調されたドラムが鳴り響き、9曲目の「傷つけた人々へ 」が始まります。が、この演出とは裏腹に、実は優しさあふれるハートウォーミング(死語?)な曲だったりします。これまでの反抗的な少年が突然素直な態度を見せたような、今風にいえばツンデレですかね(笑)、ちょっとびっくりしてしまうような変貌を見せる曲なのですが、サウンド的にはこれまでがハードに成り切れていなかった分、違和感なく繋がっているように思います。安定したミディアムテンポのリズムはこれまで同様に強調気味ですが、生のストリングスが全面的にフィーチャーされ、ふわりとした風のように実態のつかみにくいコーラスもなかなかいい感じです。
この曲はシングル「15の夜」のB面に収録された曲なんですね。相反する方向性を持った曲をカップリングすることで、新人尾崎豊の世界観の幅広さを表現したのでしょう。

そしてラスト10曲目は「僕が僕であるために」です。なるほど前曲の変貌ぶりはここに繋がってくるのね、と妙に納得してしまいました。このアルバムの結論として、この曲を最後に配置するのは大正解だと思います。アレンジもちょっとフィナーレ感が感じられますね。サウンド的にはこれまでの集大成という感じで、特筆するような事はありません(苦笑)。尾崎豊はいくつかの異なるボーカルのスタイルを曲ごとに使い分けていますが、太く甘い声質はこの曲のような歌い方が最も魅力的に聞こえるのではないかと思います。


この『十七歳の地図』というアルバムは、トータル的にとてもよくできていると思います。そしてサウンドに関して言えば、よくでき過ぎているかなという感じがしてしまいます。バラードはともかく、他の楽曲はもっと荒削りなサウンドを求めているような気がするんですね。そう思って聴いていると「はじまりさえ歌えない」などは、流行のサウンドという大人が作った枠にはめ込まれるのを嫌って、それで叫ぶように歌っているのではないかとさえ思えてきてしまいます。といっても、当時オーディションに受かったばかりの17歳の高校生がそう思っていたかどうかはわかりませんし、もちろんこれは現在の耳で聴いた上での邪推にすぎませんけど。

もしも尾崎豊が現在も生きていたら、そこのところを訊いてみたいですね。
そしてできれば「本当はサウンドも、もっとロックしたかったんだ」って、言ってほしいです。





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COMMENT

PATTI

さはんじさん、こんにちわ!

尾崎豊は全く聞いていません。
50すぎのおばさんでさえ、時々荒削りな音を求めるんだから、若さを削られたみたいなのはちょっとかわいそうって思いました。ただ、言葉に反応しただけですけど(^^;;


2012.10.27(Sat) 18:03 | URL | EDIT

さはんじ

Re:

>PATTIさん
コメントありがとうございます。

速攻レスです。
私も実はほとんど聞いた事なかったんですよ。浜田省吾や佐野元春はそこそこ聞いたんですけど、
尾崎豊はあまりにも同年代すぎたせいか、当時はほとんど興味を持ちませんでした。

このレビューは、サウンドから思い切り深読みした上での感想です。
普通に聞いたら、若さを削られてるなんてことは思わないと思いますよ(^^;。

2012.10.27(Sat) 18:11 | URL | EDIT

PATTI

Happy Halloween!

わ~~~っ!可愛いです、テンプレート!
わたしんとこは、4年間、変わらず、
あの、お花のテンプレート。
お花を見たら私を連想するように、
訪れる方々を洗脳してきたのだ~~(笑)
はじめはなんか違うのだったのよ。もう忘れちゃったけど。

2012.10.30(Tue) 19:06 | URL | EDIT

さはんじ

Re: Happy Halloween!

>PATTIさん
コメントありがとうございます。

可愛いでしょう〜(^^)
テンプレートによってブログはずいぶん雰囲気が変わりますよね。私もあんまり頻繁に変えるのはイヤなんですが、もっと見やすいテンプレートはないかなって、常に気にしてはいます。理想のテンプレートってなかなかないんですよねえ。

でも、スペシャルな日に限定的にテンプレートを変える遊びは好きなんです。といっても昨年から始めたんですけどね。ハロウィン、クリスマス、お正月には1〜3日限定でそれっぽいテンプレートに着替えることにしてます。
単なるお遊びですけど、楽しんでいただけたら嬉しいです(^^)

2012.10.30(Tue) 21:48 | URL | EDIT

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