あなろぐ懐古ログ 「転写」

2012.11.15(Thu)

さて、今回のあなろぐ懐古ログは、「転写」についてお話ししようと思います。
「転写」という言葉を辞書でひくと、「文章・図面などを写し取ること。また、書き写すこと」あるいは遺伝情報が伝えられる際に云々…とありますが、もちろんここで取り上げるのはそういう事ではありません。

録音に使用する磁気テープは、音質、ランニングコスト、使い勝手の良さ等において非常に優れたメディアなのですが、いくつかの欠点も持ち合わせています。そんな欠点の中でもこの「転写」という現象は、アナログ録音において非常に厄介な問題となるのです。

録音テープというものは、カセットテープでもオープンリール式のテープでも、リールという丸い枠にくるくると巻き取って保存します。こうする事で長時間の録音に使用する長い長いテープをコンパクトに収納でき、なおかつそのままテープレコーダーにセットして使用できるという使い勝手の良さも実現できているのです。

audiotape.jpg
    カセットテープとオープンリールテープ

さて、以前にも何度かお話ししていますが、録音テープに音を記録するということは、磁気テープの表面に塗布された磁性体を磁化させることです。つまり録音済みのテープは微弱な磁力を持っている訳です。
そしてなんと、リールに巻き取られた録音テープの磁力が、重なったテープの別の部分を磁化してしまう事があるんですね。この現象を「磁気転写」略して「転写」といいます。

転写は主に録音済みテープを長期保存した場合に起こります。保存時の温度や湿度にも影響されるようですが、重なったテープが長時間密着した状態になっていると、じわじわと磁化されていくのでしょうね。また、録音レベルが高すぎた場合にも起こります。大きな音を録音するとテープも強く磁化されるので、転写が起こりやすくなるのでしょう。そして転写は磁気テープの特性にも影響されるようで、どのメーカーの何というブランドのテープは転写が起きやすい、なんてこともありました。また、あまり聞きませんが、私の経験上、外部から強い磁気を受けた場合に転写が起きやすくなるようです。

転写は、録音済みの音がテープの重なった別の部分に写る現象なので、具体的には録音されたある音が、リール1回転分離れた部分にもう1度記録されてしまうことになります。これが「山びこ」のように聞こえるので、エコーという言葉を使って表すことが多いようです。本当の山びこのように実際の音の後ろ側に転写することをポストエコー、反対に実際の音よりも前に転写することをプリエコーといいます。
より問題となるのはプリエコーですね。実際の音が聞こえる前に、山びこの音が聞こえてしまうなんてことは、常識的にあり得ません。もちろん意図しないポストエコーもあってはならないのですが。

ここで、転写によるプリエコーがどんな感じなのかを聞いていただこうと思います。といっても、実際の転写の音ではありません。これは私の記憶をもとに作った再現音です。わかりやすくするためにちょっと大げさにしましたが、割と雰囲気は出ているんじゃないかと思っています(自画自賛?)。音源は以前に使用し、嵐の相葉クンに似ていると評判の(?)私の声です。恥ずかしいことは恥ずかしいのですが、使えるものはバンバン使い回していきますよ(笑)。







どうですか、こんな感じの録音を耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか。


転写は録音した後に起きる現象なので、録音時にチェックすることができません。しかも発生してしまうと(無音部分への転写以外は)修正することが不可能(か非常に困難)なので、とても厄介な問題です。
転写の防止策としては、録音レベルを高くしすぎない、高温多湿の場所や強い磁気を帯びた物の近くにテープを保存しない、また、長期保存の際は時々テープを再生または早送り・巻き戻しなどをして、テープ同士を長期間密着させない、などの方法がありますが、いずれにしてもあまり積極的な防止策とは言えませんね。

さて、転写を防ぐのはなかなか難しい。それならせめて音のネタバレともいえるようなプリエコーだけは防ぎたい、という事で、録音スタジオや放送局などで実践されているテープの保存方法に「マスター巻き」というものがあります。ただしスタジオなどではオープンリールテープを使用しており、さらにA・B面では使用しません。つまり、テープを片道方向だけに使用していることが前提となります。

作業が終わってテープをレコーダーからはずす際に、供給側のリール(サプライリールといいます)にテープを全部巻き戻しておきたくなるのが人情というもの(?)ですね。こうしておけば次に使用する際には、テープのリールをレコーダーにセットしてすぐに再生することができます。
ところがテープを巻き戻した状態で保存すると、転写が起きた際にプリエコーになってしまうのです。反対に早送りをして、巻き取り側のリール(テイクアップリールといいます)にテープを巻き取っておけば、転写が起きてもポストエコーになります。どちらがいいかといえばポストエコーですから、こちらを選びたいですね。ただし、高速の早送りをすると巻き取りにムラができます。テープのフチの部分に段差ができると、長期間の保存や外部から何らかの力が加わった場合に、この部分がヨレヨレのワカメ状になってしまい、再生に影響が出てしまう可能性があります。ムラなく巻き取るためには早送りではなく、テープの最初から最後まで再生状態にする必要があるのです。たとえば30分の録音テープを巻き取るのにしっかり30分の時間がかかってしまいますが、こうすればテープには常に一定のテンションがかかり、フチも揃ってムラなくきれいに巻き取ることができます。
こうして保存したテープは、再生する前に必ず巻き戻さなければなりません。この時に、湿度などの影響により貼り付いてしまったテープ同士をはがすことができますし、前回巻き取った際にテープの間にはさみ込んでしまったゴミやほこりなどを、高速巻き戻しの風圧で吹き飛ばすこともでき、より良い状態で再生することができるというメリットもあります。
これが「マスター巻き」です。マスターテープの保存に適した巻き方、という意味でついた名称でしょうね。多少の手間はかかりますが、大切な録音テープの状態を良好に保つためには欠かせない保存法です。

ところで余談になりますが、プリエコーが発生する原因は磁気テープの転写だけではありません。アナログレコード製作時の、カッティングやプレスという工程でもゴースト現象と呼ばれるプリエコーが起きることがあるそうです。古いレコードにはプリエコーが聞こえるものがありますが、それがどの工程で発生したのかを特定するのは難しいと思います。


磁気転写はオープンリールテープだけでなく、カセットテープにも起きる現象です。長期保存しているテープが必ず転写するという訳ではありませんが、転写が起きてしまうと取り返しがつかない事が多いのです。
もしも長期保存している大切なアナログ録音テープがある場合は、なるべく早くデジタルデータに変換することをおすすめします。デジタルデータはテープメディアに記録したとしても転写の影響を受けませんから。
でも今はテープよりも長期保存に適したメディアがいくらでもありますねえ。

以上、今となっては何の役にも立たない、「転写」についてお話ししました。


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COMMENT

まーる

((φ(..。)

ふむぅ♪ おもしろいですね(°∀°)b
いや、転写を防ぐためにできるだけのことはして
あとは、せめてポストエコーとなるように、と、そのために
一生懸命考えを巡らせた方たち、手間暇をかけた方たちがいて・・・。
そのことは
「大変だったんだなぁ」
って思いますが
こういう現象が起こってしまうからこのように対処していたんだよ
というお話は、今回に限らず、ですが
とてもおもしろいです♪ (^-^)
今回は、思いがけず
さはんじさんの声を再び聴くことできちゃったし( ´艸`)

わたしみたいな一般の・・・なんの知識もなく
「転写」なんてことが起こることも何も知らない人で
大事なテープに転写が起きて
こんなんなっちゃった・・・(T▽T;)
って切ない想いをした人、けっこういるのかなぁ?なんて
ぼや~っと想像しちゃいました。
カセットテープ・・・そういえば
小学生、中学生のときに
市の学校が集まって行う音楽会でピアノを弾いたことがあって
そのときの録音テープを持っていたはずなのですが
あれは・・・どこへやったんだったかな。
(って、さはんじさんが知ってるわけないw)
多分、クローゼットの奥のほうにはあるんだと思うのですが
我が家には今、カセットテープを再生する手段がないし
再生したとしても・・・すごい音だったり
「転写」に出会っちゃうかもしれませんね( ̄ー☆

2012.11.15(Thu) 12:06 | URL | EDIT

PATTI

わ~い!相葉く~ん!キャ~!

って、そんなことじゃないね。プリエコー、ありました。
録音時に起こるのかと思っていました、え?そんな事ありえないか。Young PATTIは、目の前のことにとらわれすぎて、あまり、好奇心旺盛ではありませんでしたので、疑問にも思わなかったようです。
そんなこんなをあの頃知っていれば・・・さはんじさん、タイムスリップして、あの頃の私に、
いろいろ教えてやっておくんなさい(^^)

2012.11.15(Thu) 18:44 | URL | EDIT

さはんじ

Re: ((φ(..。)

>まーるさん
コメントありがとうございます。

デジタルって便利だけどユーザーが手を加える余地がほとんどないんですよね。アナログは不便なところもたくさんあったけど、色々と工夫して改善できる面白さがありました。今から思えば不便なところも面白かったですね(笑)。そういった面白さをちょっとでも伝えられたらいいなと思ってます。

転写もそうですけど、長期間の保存となるとテープ自体の耐久性も問題になりますね。あまりに時間が経つとテープが伸びてしまったり、記録する磁性体がはがれ落ちてしまったりすることもあります。
長い間再生していなかったテープを聞くのは、ちょっとドキドキする行為ですね(^^)。

2012.11.15(Thu) 22:53 | URL | EDIT

さはんじ

Re:

>PATTIさん
コメントありがとうございます。

いや、相葉クンじゃないから(笑)
やっぱり転写した音を聞いたことがありましたか。私くらいの世代の人は結構いろんなところで聞いてるんじゃないかと思うんですよね。
タイムスリップできたら…この記事もいろんな人の役にたつかもしれません(^^)。

2012.11.15(Thu) 23:00 | URL | EDIT

cyah

こんばんは。

デジタルでも磁気テープ全盛の時期があったんですよ。
昔はオフコンあたりだと必ず磁気テープ記録装置がありましたから。
(コンピュータが空調室に鎮座していた頃ですね。オープンリールのやつ)

比較的最近までバックアップ用に8mmビデオテープが活躍していたりします。

あとPC8801あたりが全盛の頃はFDDドライブですら高価で、
もっぱら記憶装置はカセットテープがメインでした。

話は変わりますが、ビデオテープも巻き直ししないとダメになりますね。
カビが生えて見られなくなったテープを何本処分したか・・・orz

2012.11.17(Sat) 00:54 | URL | EDIT

堕天使きらら

おはようございます

うちが幼稚園の頃から使ってたデッキがオープンリールでしたよ。
パパが録音した「歌番組」のものがたくさんあって、結構自由に聴いてたんだけど、保存版の「紅白歌合戦」のテープを壊しちゃってから触らせてもらえなくなりました。

その代わりに与えられたデッキがナショナルの「スナッピー」というおもちゃみたいなデッキでした。
フィンガー5がCMしてたんですけどご存知ですか?

2012.11.17(Sat) 07:05 | URL | EDIT

さはんじ

Re:

>cyahさん
コメントありがとうございます。

おっしゃる通り、磁気テープにデジタルデータを記録していた時期がありましたね。
テープメディアは何と言ってもコストパフォーマンスに優れていましたから。
業務用DAWなんかでもHi8やDATにデータのバックアップをとっていました。
しかし、いかんせん書き込みや読み取りに時間がかかるので、HDDの値段が下がってくると次第になくなっていきましたね。

しかし、PC8801って、cyahさんおいくつですか?(^^; 

ビデオテープも磁気テープですから、オーディオテープと扱いはさほど違いません。転写も起きます。ただ、さすがに画像がダブッて見えたりはしないようで、画質劣化として症状が表れるようです。
ビデオテープはデッキ内部でかなりハードな扱いをするので(テープをカートリッジから引っぱりだしてドラムヘッドに巻き付ける等)オーディオテープよりもナイーブ(?)ですね。巻き直しをして、カートリッジは縦置きにするなどして保存する必要があります。

2012.11.17(Sat) 11:09 | URL | EDIT

さはんじ

Re: おはようございます

>堕天使きららさん
コメントありがとうございます。

さすがに幼稚園児や小学校低学年の子どもには、オープンリールデッキの扱いは難しいでしょうね。テープをダメにしちゃったとしても、まあ仕方ないのかもしれません。

「スナッピー」、覚えてないですねえ。フィンガ−5全盛期といえばそんなに期間は長くないので、大体私が小学校4年生くらいの時だろうと思うのですが。
私はまだその頃にテープデッキなんて買ってもらえませんでしたよ(^^;。
いとこの家にラジカセがあって、そこでエアチェックしたフィンガ−5を聞かせてもらったのを覚えてます。

2012.11.17(Sat) 11:16 | URL | EDIT

PATTI

こんにちわ!私はフィンガー5アキラと同い年ですが永遠の20歳です。cyahさんは、私より年下で、永遠の16歳だそうですo(^▽^)o

2012.11.17(Sat) 18:01 | URL | EDIT

さはんじ

Re:

>PATTIさん

あー、それじゃ私は永遠の17歳ってことでいいですねっ!
・・・なんだか言えば言うほど哀しくなってくるのは気のせいですよね。

2012.11.17(Sat) 22:23 | URL | EDIT

cyah

こんばんは。

ひめ、それは違います。
ヲタの場合は17歳です。
有名な声優さんに17歳教の教祖様がいるので、
ほとんどのヲタは17歳と答えるのが、一応慣習となっております。
(17歳と何日かは忘れた!)

2012.11.18(Sun) 22:54 | URL | EDIT

さはんじ

Re:

>cyahさん

全然知らなかったのでググッてみましたよ。そしたら。
自慢になっちゃうかな。
もう20年くらい前の事ですが、私、その教祖様と一緒に仕事したことあります。(^^)v
スタジオに勤めていたことがあるもので。

そっか、自分のこと永遠の17歳なんて言うと、信者だと思われてしまうかもですね。
別にイヤじゃないですけど、18歳くらいにしとこうかな〜。

2012.11.19(Mon) 17:24 | URL | EDIT

cyah

おおっ、それは凄いですね。
最近の話ならサインの一枚もねだるところだったのに・・・
残念!

2012.11.19(Mon) 23:21 | URL | EDIT

さはんじ

Re:

>cyahさん

仕事でお会いするとなると、なかなかサインくださいとは言えないもんです(^^;

2012.11.20(Tue) 17:38 | URL | EDIT

ももPAPA

こんばんわ♪

8トラオープンデッキ
懐かしいです!
若かりし頃 気に入ったギターフレーズをコピーするのに、テープに録音して、早いパッセージ部分は回転を落として聴き取りながらコピーに励んだものです。

そのときに何やら ぼんやりとした音が耳に入ることがありましたね。 それが たぶん 転写された部分だったんでしょうね。

2012.11.21(Wed) 21:38 | URL | EDIT

浦太

レコードのプリエコーで、
「もしかしてオレ、予知能力あるのかも?」
なんて事を思った事が有る若かりし日の無知な私…

2012.11.22(Thu) 00:26 | URL | EDIT

さはんじ

Re:

>ももPAPAさん
コメントありがとうございます。

テープの回転を落として聴き取りコピーする、かつてのギター小僧の定番の技ですね(^^)
あの頃の録音は色々な雑音が入っていて当たり前だったから、いちいち転写なんて気にしなかったでしょうね。私も高校生くらいのときは気にしてなかったな〜(^^;


2012.11.22(Thu) 17:06 | URL | EDIT

さはんじ

Re:

>浦太さん
コメントありがとうございます。

自分だけに聞こえたのなら、予知能力ということもあるかもしれませんが…(^^;
古いレコードにはプリエコーが聞こえるものが結構あったようですね。

2012.11.22(Thu) 17:12 | URL | EDIT

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2015.04.07(Tue) 13:30 | | EDIT

さはんじ

>鍵コメさん
コメントありがとうございます。

私、びっくりするほど英語力がないので、正しいかどうかわかりませんが、おそらく
「転写の効果を最小限にするために、テープはリールに逆方向に巻き取って保存するべきである」
というような意味だと思います。
まさに本記事で触れている「マスター巻き」のことだと思いますよ。

2015.04.07(Tue) 14:24 | URL | EDIT

しゅうじ

ありがとうございました。

2015.04.09(Thu) 13:28 | URL | EDIT

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