吉田美和『beauty and harmony』

2012.11.26(Mon)


beauty and harmonybeauty and harmony
(1995/12/18)
吉田美和

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今回のCDレビューは、DREAMS COME TRUE のボーカリスト、吉田美和が1995年に発表したファースト・ソロアルバム『ビューティー・アンド・ハーモニー』です。このタイトルは本人の名前「美和」を英訳(?)したものらしいのですが、また同時にアルバムに収録されたや楽曲や歌詞の内容、そしてそのサウンドさえも的確に表しているタイトルだと思います。
収録曲はすべて吉田美和の作詞作曲で、歌詞の世界観はドリカムに近いものがありますが、そのサウンドはひと味もふた味も違いますよ。何と言ってもこの『ビューティー・アンド・ハーモニー』は、NY 、LAの超一流ミュージシャンとのセッションによって作られた、洋楽ファンやジャズファンにとっても聴き応え充分なアルバムなのです。

Wikipediaには、このアルバムの参加ミュージシャンはかの名盤、マリーナ・ショウの『フー・イズ・ジス・ビッチ・エニウェイ』とほぼ同じ、との記載がありますが、一致しているのはデビッド・T・ウォーカー、ハービー・メイスン、チャック・レイニーの3人だけなので、ほぼ同じという表現は微妙なところですね。ただしこういった記載があることから考えても、『フー・イズ・ジス・ビッチ・エニウェイ』を意識した人選であることは間違いないでしょう。ここにキーボードのジェイ・ワインディングが加わり、吉田美和との5人体制でセッションを繰り返し、楽曲を構築していったものと思われます。そしてさらにゲストとしてラルフ・マクドナルド、マイケル・ブレッカー、グレッグ・アダムスなどが参加するという形になっています。
しかし私は『フー・イズ・ジス・ビッチ・エニウェイ』とのサウンド比較なんて野暮なことをするつもりはありません。参加ミュージシャンが同じだからといっても20年も前の録音ですからね。

さてこのアルバムのサウンドですが、素晴らしいの一言です。はい、レビュー終わり。で、本当に終われたら楽でいいですね(笑)。多彩な表情を見せる吉田美和のボーカルは実になめらかで心地良いサウンドです。ジャジーな雰囲気を出すためかリバーブがかなり深めですが、それがダサく感じないところにエンジニアリングの妙を見た気がしますね。歯切れよくダイナミックなドラム、どっしりと太いベース、とても豊かな響きを持ったギター、美しく広がるキーボード等々、超一流プレーヤーの演奏と、名エンジニアのアル・シュミットによって紡ぎ出されたサウンドはまさに「ビューティー・アンド・ハーモニー」そのものです。

まず1曲目は表題曲「beauty and harmony」です。1分に満たないアカペラの短い曲ですが、このアルバムのテーマをズバッと明示したような、まさにプロローグにふさわしい曲ですね。どっしりと太く、しかも伸びのあるボーカルの存在感はさすがです。洞窟の中のような深い深いロングリバーブがかかっていますが、最後の部分では残響がだらしなく残ることなく、非常にきれいに処理されています。

2曲目「つめたくしないで」は、グリッサンドとハンマリングを多用したデビッド・T・ウォーカーの美しいギターから始まります。左右のチャンネルにオーバーダブされた2本のギターは歌詞にある揺れ動くふたつの心情を表現しているのでしょうか。そしてそこに入ってくるシャープなスネアドラムのダイナミックさがたまりません(笑)。リズム隊が揃った時の安定感は本当に抜群です。間奏で地味にテーマを演奏するフリューゲルホルンが、後半のボーカルとの絡みでは徐々に張りのあるサウンドになっていくのがよく分かります。吉田美和本人によるコーラスも、スキャットやオクターブユニゾンなどアイデアが豊かですね。後半に力強くなっていくハイハット、そしてラストのリフレイン部分ではとても繊細なリムショット、というドラミングの抑揚にも注目したい曲です。

3曲目の「泣きたい」は、アコースティックピアノとロングディレイを伴ったテナーサックスのインプロビゼーションから始まりますが、よく聴くとベル系のパーカッション(小さなトライアングルでしょうか)が左右に大きく揺れている他、柔らかいマレットを使ったようなシンバルの音やギターも聞こえています。
この曲ではリズム隊が揃ったときにステレオイメージが大きく広がります。左右のギターやアコピ、エレピの絶妙な配置によるものでしょう。切ない歌詞を裏付けるようにリズムは重たい感じですが、可愛らしくユーモラスなパーカッション(カウベルとウッドブロックの組み合わせでしょうか)のサウンドに救われますね。まるで隠し味の調味料のようです(笑)。ボーカルと掛け合いになる悲痛なコーラスは柔らかいサウンドで少し遠くから聞こえてきます。間奏はふわっと灯がともるように明るい雰囲気になり、このあたりのバランス感覚も素晴らしいですね。後半のリズムアクセントのフレーズも気持ちよくバチッと決まっています。全体に枯れたサウンドのサックスが活躍していますね。

暖かく落ち着いた雰囲気のある4曲目「バイバイ」は、失恋のまさにその瞬間を歌った曲で、とても悲しい歌詞なのですが、ギターとエレキピアノを主体とした全体のサウンドはやさしく明るささえも感じられます。強いていえばバスドラムのサウンドが曲調の割に重いかなというくらいでしょうか。この曲でも小さなトライアングルのような音が控えめにキラキラとした雰囲気を作っています。本当に控えめですけどね(笑)。歌詞の切なさがクライマックスに達する後半ではリズムが立って、哀しみの中にどことなく前向きな感情が芽生えてくるのをサウンドで演出しているかのように感じられます。

5曲目の「パレードは行ってしまった」は、スタンダードナンバーの「テイク・ファイヴ」を彷彿とさせるような5拍子のイントロから始まります。全体に暗い曲調で、ピアノやギター、ハイハットやシンバルも高域を抑えた暗いトーンになっています。スネアドラムも他の曲と比べてだいぶこもったサウンドですね。そんな中、ボーカルに絡むミュート・トランペットの金属的な響きが楽曲のサウンド的なアクセントになっています。5拍子のフレーズと6拍子のメロディが交互に繰り返され、サビは5拍子に落ち着くという凝った曲構成になっていて、一度だけ不意に転調する部分もインパクトがあり効果的です。
詩的で硬い表現を多用した歌詞は難解に見えますが、どうやらドリカムのファンには読み解けるようになっているようです。歌詞の詳しい解説をしたサイトがいくつかありますので、興味のある方は検索してみてください。

一転、ノリノリの明るいR&Bといった感じの6曲目「A HAPPY GIRLIE LIFE」ですが、スネアドラムはヌケの良いシャープな音であるものの、その他の楽器は柔らかめのトーンで統一されていて、あくまでもボーカルがメインであるというサウンド的な意図が感じられます。茶目っ気たっぷりのトボけた歌詞ですが、ボーカルはキュートになり過ぎず、どちらかというとドスの効いたダイナミックな歌い方をしていますね。こういった曲調でもボーカルには相変わらずリバーブがたっぷりとかかっていて、非常になめらかなサウンドになっています。この曲にはチャック・レイニーの短いベースソロがありますが、出しゃばらず堅実なフレーズとサウンドは貫禄充分といった感じです。
また、たまたまスタジオの前を通りかかった5人の女の子に参加してもらったというコーラスも実にうまくハマッていて、これはナイスアイデアですね。エンディングではパーティー会場のような楽しい雰囲気が感じられ、NYの素人さんのノリの良さに感心してしまいました(笑)。

7曲目「DARLIN'」は、美しく滑らかなストリングスをフィーチャーしていますが、必要以上に豪華になることなく、程よく華やかさを添えている感じです。他の曲よりも中低域にふくらみが感じられるように思います。コーラスは吉田美和のひとり多重録音なのでしょうか、美しい上にフレーズや録音による遠近の表現などのアイデアも豊富ですね。目立たないながらも細かなノリを作り出しているコンガにも注目したいところです。後半では高域を削ったようなカウベルなどもオーバーダブされ、ちょっとわくわくするような気持ちも演出しているでしょうか。目立ちませんけどね(笑)。艶やかなバッキングに映えるサックスソロにはうっすらとロングディレイがかかっています。

ぐっとテンポを落とした暗く重い曲調の8曲目「冷えたくちびる」は、重く存在感のあるバスドラムとフェイザー系のエフェクトがかかったエレキピアノが印象的です。この曲ではアップライトのエレキベースが使われているような気がします。悲痛な響きを感じさせるボーカルも雰囲気たっぷりですね。間奏ではテンポアップして軽快な4ビートになり、ギターとアコースティックピアノのアドリブが展開されます。ピアノとユニゾンするスキャットも見事です。このピアノは響きが独特で、もしかしたらエレキピアノもユニゾンしているのかもしれません。その後曲調は元に戻り、エンディングでは多彩なフレーズと音色が印象的なデビッド・T・ウォーカーの職人芸的なギターソロをたっぷりと聴く事ができます。

9曲目「奪取」は、静かに終わった前曲「冷えたくちびる」の余韻を打ち破るかのように思い切りボリュームを上げたサックスから始まります。このレンジ感に驚かされ、やられたという感じですね(笑)。テンポはそれほど速くないものの、ポジティブな内容の歌詞によくマッチした明るく元気なアレンジの曲です。ドラムのサウンドは歯切れよく生々しいのですが、シンバルだけはぼんやりとした音像でだいぶ遠くから聞こえてくるように感じられます。1小節おきに入るコーラスはベタといえばベタですが、効果的に決まっていますね。
全体がフェードアウトした後、しばらくするとまたこの曲のセッション風景を思わせる演奏がフェードインしてきます。これは演奏に興が乗り、OKが出ても延々とプレイが続いた部分だと思います。セッションの楽しい雰囲気を伝えたくて採用したのでしょう。これを聴くと、吉田美和のスキャットも他の楽器と同時にセッション収録しているらしいことがわかります。また、エレキピアノやゲストによるパーカッションやサックスは聞こえてこないので、後からオーバーダブしているのでしょうね。

10曲目の「生涯の恋人」は実質的なラストナンバーと言えるでしょう。ゆったりとした3拍子の曲ですが、迫力たっぷりのドラムサウンドがとても力強い雰囲気を作り出しています。吉田美和のボーカルも時に優しく時に力強く、非常にダイナミックです。ストリングスも入っていますが、こちらは壮大になり過ぎることなく控えめに美しさを表現しているようです。これはアルバムのトータル的なサウンドを重視したミキシングなのでしょう。ギターがちょっと「男が女を愛する時」に似たフレーズを挿んでくるのもニクい感じですね。

この曲がフェードアウトすると、また前曲「奪取」と思われる演奏が聞こえてきます。リズムパターンが違っているのは、セッションを続けているうちに展開・変化してきたのでしょう。これはそのセッションの一番最後の部分で、なんとなくだらしなく(笑)演奏が終了する様子が収録されています。笑いながら拍手をする吉田美和の嬉しそうな声からは、楽しく和やかなセッションの雰囲気が伝わってきますね。

そしてこのアルバムの締めくくりとなる11曲目は「beauty and harmony〜reprise」です。1曲目のアカペラ曲の再出で、こちらはストリングスによるインストゥルメンタル・バージョンになっています。他の曲で聴けるストリングスは非常に滑らかなサウンドでしたが、ここでは弓と弦が擦れるざらざらとした質感がはっきりと聴き取れる生々しい音がしますね。主旋律と伴奏にははっきりとした音量差があり、メロディの印象を強く残したいという意図が感じられます。1曲目と同様に深いリバーブがかかっていて、こちらも最後の部分では残響を潔く、かつ不自然にならないようにうまくカットしています。


この『ビューティー・アンド・ハーモニー』は吉田美和のアルバムですから当然J-POPにカテゴライズされるのですが、そのサウンドはスムースジャズそのものと言っても過言ではありません。もちろんメインとなるのはボーカルですが、そのサウンドも非常に自然でまったく違和感がありません。エンジニアのアル・シュミットは、本当は日本語に堪能で、歌詞の行間に隠された心情の機微まで理解しているのでは? と思ってしまうほどに絶妙で的確なミキシングだと思います。(さねよしいさ子のリミックス盤を聴いたときにもそう思ったんですよね)

ただ、歌詞は若い女性の目線による非常にストレートな内容なので、いい歳をしたおぢさんが聴くには少しばかり恥ずかしいかな〜、というのが正直な感想であります、ハイ。


  


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COMMENT

PATTI

ひねくれものPATTI

さはんじさん、こんにちわ

遅刻しなかった?
寒くなると朝、辛いですね・・・って、それも、50歳までです。51歳になると、用もないのに早起き。
おまけに目覚まし時計はもう要りません。

もうちょっとだよ~\(^o^)/

今度の記事は、私ね、コメントのしようがなくって。
天下のドリカム、吉田美和が、苦手なの。
なんでも聞くを信条にしながら、この人だけがダメ。

なんでかわかんないんだけど、多分、私には、
つまんないんです。

誰か、ドリカム好きな人がコメントするのを待ってたんだけどないので、1番コメ。ごめんなさいね、こんな内容で。久しぶりにさはんじさんとお話したかったんだもん(^^)

2012.11.29(Thu) 17:12 | URL | EDIT

さはんじ

Re: ひねくれものPATTI

>PATTIさん
コメントありがとうございます。

本当に寒くて朝はつらいです。目覚まし時計はいつの間にか止めてるんですよねえ。
今日は子どもに起こされました(^^;

苦手なものは仕方ないですよね、どうぞお気遣いなく(^^)
ウチは基本的にJ-POPのレビューにコメントがつきにくいみたいです。
たぶん常連さんたちの嗜好と違うんでしょうね。
でも、検索で来てくれる人は結構多いんですよ〜。

2012.11.29(Thu) 17:30 | URL | EDIT

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