あなろぐ懐古ログ 「ピンポン録音」

2013.06.26(Wed)

今回のあなろぐ懐古ログのテーマは「ピンポン録音」です。といっても、これは卓球の実況録音のことでも、玄関チャイムを録音することでもありません。などと軽いボケをはさんでみましたが、実はそれほどレアな言葉ではなく、複数の音を重ねて録音する、いわゆる「多重録音」の経験者であれば、一度は耳にしたり使ったことのある言葉なのだと思います。

「ピンポン録音」は本来、マルチトラックテープを使用した録音時に用いられる言葉であって、録音メディアのほとんどがハードディスクやメモリーに移り変わった現在では死語となっていても不思議はないのですが、慣習的に細々と使われ続け、今でも生き残っているようです。いわば絶滅危惧語、でしょうか(笑)。

ピンポン録音とは、録音テープに記録された音を再生し、同じテープの別トラックに再び録音する事です。なぜそんな事をするかというと、まあ色々な理由があるのですが、一般的には録音トラック数よりも多くの音を録音したい時に行う苦肉の策(笑)なんですね。その場合には、あらかじめ複数のトラックに録音された複数の音をミキシングして、ひとつ(ステレオの場合はふたつ)の別トラックに録音します。

たとえば4トラックのマルチトラックテープレコーダー(MTR)があって、これを使って音楽を作っていくとします。
1トラックにドラム、2トラックにベース、3トラックにギターを録音しました。残りのトラックはあとひとつですが、まだ他にもギターやキーボードやボーカルなども録音したい…、さあどうする? という時に秘密兵器(笑)ピンポン録音の出番となるわけです。
録音したドラム、ベース、ギターをミキシングして、空いている4トラック目に録音するのです。これが完了すると1〜3トラックの音は不要となり、消去してまた新たな楽器を録音することができます。

pingpong.png

さらに楽器を重ねたいなら、ひとつの空きトラックに、またいくつかのトラックの音をミキシングして録音すればいいのです。これを繰り返せばいくつもの音を重ねて録音することができますね。

録音テープの別トラックへと音が行ったり来たりする訳で、これが卓球のボールのようだという事で「ピンポン録音」と呼ぶようになったのでしょう。「ピンポンする」などと言ったりします。録音作業中にこう言われたからといって、卓球台を用意したりしないでくださいね。
英語では何というのか調べてみたら、そのまんま「Pingpong Recording」でした。日本特有の名前かと思ったら、そうでもないんですね。発祥はどちらなんでしょう?

さて、とても便利なピンポン録音ですが、いくつか注意すべき事柄があります。
まず、ピンポン時のミキシングには細心の注意を払わなければなりません。個別に録音した音はあとで消去してしまいますから(そのためにピンポンしているのです)その後にバランスを変えたくてもそれはできません。個別のエフェクト処理なども同様です。最終完成形を想定して、つまりは、まだ録音していない音さえも入ってきたらどうなるかを想定してバランスをとり、加工してミキシングする必要があり、しかも後でやり直しはできないのです。これは相当にリスキーな行為で、ある程度の経験が必要だと思います。

そして、ピンポン録音は再生と録音を繰り返す行為ですから、やればやるほど音質が劣化していきます。テープヒスなどのノイズもどんどん加算されていきますから、あまり多用するのはよくありません。音質を気にするのであれば、せいぜい1〜2回にとどめるべきでしょうね。
ただしこれはアナログレコーディングの場合で、デジタルレコーダーを使用しているならそれほど気にする必要はありません。特に非圧縮フルデジタルのシステムの場合には、音質の劣化やノイズの増加はほとんどないと言えるでしょう。面倒臭くてイヤにならない限り、無限にピンポンし放題です(笑)。

また、アナログ録音の場合、この例のような4トラックレコーダーでは無理がありますが、ある程度トラック数に余裕があるケースでは、隣接するトラックへのピンポンは避けるべきです。というのは、ピンポン録音中の音が、再生中の隣のトラックにクロストークすることがあるのです。再生トラックのフェーダーを上げ過ぎると、最悪の場合、ループが発生してハウリング状態になりますし、そこまでいかなくても周波数特性が異常になることがあるので注意が必要です。

ではトラック数をかせぐ事以外で、ピンポンが必要になるケースにはどんなものがあるでしょうか。
まず考えられるのは、複雑になるであろう最終ミックスダウンの作業をなるべく簡単にするために、部分的なミックスを作ってしまう事です。例えば、大編成のコーラスやブラスセクションなどをあらかじめミックスしてトラック数を減らしたり、複数のトラックに録音されたボーカル(または他の楽器)の、OK部分だけをまとめて別の1トラックにピンポンしておけば、ミックスダウン時の負担は大きく軽減します。

ミキシングをせずにピンポンするというケースも考えられます。
録音レベルがまちまちで細かなボリューム調整が必要なトラックを、フェーダー操作でレベルを整えつつ別トラックにピンポンするという事もあるでしょう。
あるいは、コンプレッサーなどのエフェクトを別のパートにも使いたいけれども、エフェクターがひとつしかないんだよ、という悲しいケースでも、エフェクトをかけてピンポンしておけば、機材の使い回しが可能になりますね。
Wikipediaや、その他のWeb辞書などを見ると、ピンポン録音時には必ずミックス作業が伴うかのように書かれていますが、このように加工だけを施す場合もピンポンと呼べると思います。

また、少々特殊なケースですが、ビデオなど映像の音声処理(MA)作業では、撮影時の現場音やナレーション、セリフ、BGMや効果音などをすべてミキシングしたものを、別トラックにピンポンして、マルチトラックテープ上に完成品の最終ミックスを作ってしまう事がよくあります。これは、マスターVTRの走行回数を必要最低限に抑えるための配慮なのです。

他にも様々なケースが考えられると思いますが、このようにピンポン録音は作業上の色々な都合にあわせて便利に使用されてきました。
しかしながら多重録音作業の多くが、マルチトラックテープからDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)に移行してしまった現代では、ほとんど必要とされなくなってしまったのです。DAWはトラック数も豊富に使えるし、編集やエフェクトなどの自由度も高いですからね。もちろんDAWでも複数のトラックをミキシングしてまとめるなどの作業は行いますが、これはピンポンではなく「バウンス」という名称がつけられています。

今でも、使い慣れた「ピンポン」という言葉を使っている人もいて、ふたつの言葉が混在した状況ではあります。が、公式なマニュアル等に「ピンポン」という記載は(たぶん)無いので、いずれはバウンスに統一されてしまうでしょう。便利で、ちょっと可愛い響きを持った「ピンポン録音」という言葉は、やがては忘れ去られてしまうのだろうと思います。
まさに絶滅危惧語(そんな言葉はありません)と言えるでしょう。


以上、今となっては何の役にも立たない(かもしれない)、「ピンポン録音」についてお話ししました。


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COMMENT

浦太

私、初めてオリジナル曲を作った時は、MTRさえ持っていなかったのでカセットMTR2台を使って多重録音してました。

言ってみれば卓球台2つ使ってのピンポンです!!

なんせ、パワーは有っても金は無いって状況でしたから。
当然音はモコモコ、ボワボワ…、ヒスノイズの嵐…
でも、充実感は今より有りましたね。

2013.06.27(Thu) 09:40 | URL | EDIT

さはんじ

Re:

>浦太さん
コメントありがとうございます。

テレコ2台を使った多重録音は、音があっちへこっちへと行き交う、まさにピンポン状態ですね。
これについても少し触れようかと思ったのですが、厳密には「ピンポン録音」とは言わないそうなので割愛しちゃいました。
カセットデッキは走行速度の基準が甘いので、多重録音を繰り返すとピッチの狂いも問題になりますね。

でも、きっと当時は「多重録音ができた」という喜びが何にも勝っていたんだと思います。

2013.06.27(Thu) 11:33 | URL | EDIT

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