Will Lee『Love, Gratitude and Other Distractions』

2013.09.25(Wed)


ラヴ、グラティテュード・アンド・アザー・ディストラクションズラヴ、グラティテュード・アンド・アザー・ディストラクションズ
(2013/07/24)
ウィル・リー

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先々月のことですが、なんとなんと、世界的トップベーシスト、ウィル・リーのリーダーアルバムが発売されました。スタジオ録音としては1994年に発表されたソロ名義のアルバム『OH!』以来、19年ぶりとのことです。アルバムタイトルは・・・、って、どこかで見たような文章だと思ったら、前回のレビューとまったく同じですね、まあワザとではありますが(笑)。

えーと、今回のアルバムタイトルは『Love, Gratitude and Other Distractions』ということで、前作に比べて非常に長いですね。日本盤もそのまま『ラヴ、グラティテュード・アンド・アザー・ディストラクションズ』という、長いうえに日本人には覚えにくいタイトルになっています。何とかならなかったんでしょうかねえ。でも『リーの流儀』とかはヤメてほしいですし、直訳もダサいかなと思います(笑)。

最近ではあまりCDを購入しなくなった私ですが、ウィル・リーの新譜とあっては気にならないはずがありません。発売を知ったその場で即ポチしちゃいました。という訳で(発売から2ヶ月ほど経っていますが)緊急レビューといきましょう。

・・・あれ? でぢゃぶか?

前作『OH!』が発表されたとき(もう19年も前なんですねえ)、世界最高峰セッションベーシストのソロアルバムが完全なボーカルアルバムだったことに大層驚いたものです。いや、渡辺貞夫のアルバムなどでその歌声を聴く機会は度々ありましたし、私個人的にもウィル・リーのボーカルは大好きだったのですけどね。もちろん太くて存在感のあるベースも大好きです、はい。ですからこの『OH!』は、長らく私のお気に入りCDでありました。
で、今作『ラヴ、グラティテュード・アンド・アザー・ディストラクションズ』(長いなあ)もボーカル曲がメインのアルバムです。今回はインストゥルメンタルもあり、カバー曲とオリジナル曲の比率もいい感じになっていると思います。

ジャズ/フュージョンのファンでウィル・リーを知らない人は稀でしょうが、彼はジャンルを超えて非常に数多くのセッションをこなしてきたベーシストで、日本でも山下達郎や矢野顕子、SMAPなど多くのアーティストの曲に参加していますから、例えその名前は知らなくても演奏は誰もがきっとどこかで耳にしているはずです。そんな彼の人脈の広さを裏付けるかのように、このアルバムには実に数多くの豪華なミュージシャンが参加していて、そちらも聴き所のひとつとなっています。

では1曲ずつ聴いていきましょう。

まず1曲目「グラティテュード」のイントロは、キーボード(オルガンでしょうか)のロングトーンがゆっくりゆっくりフェードインしてきます。一体何が始まるのだろうかと耳をそばだてていると、いきなり声を張り上げるかのようなボーカルが勢い良く入ってくる、このインパクトは大きいですね。まるで「今回も歌うぜ〜!」と言っているかのようです(笑)。解説にもありますが、ちょっとスティングの曲のような、ワールドミュージックっぽさのあるAORといった感じの楽曲で、左チャンネルから聞こえている、単音でリズムを刻んでいるギターのような楽器はどうやらアフリカの民族楽器ンゴニのようですね。マリンバのような音も聞こえていますがクレジットされていないので、これはシンセサイザーなのでしょうか。タイトなサウンドのドラムはクリス・パーカーで、ウィル・リーのプレイするフレットレスベースの音量はかなり大きめにミックスされています。リズムを後押しするアコースティックギターはダブルで左右に広げられ、実に良い感じですね。間奏のソロはシンセサイザーのようにも聞こえますが、これはエフェクティブなトランペットじゃないかなと思います。

1曲目が唐突に終わると、ヘビーに歪んだベースとギターのリズムが聞こえてきて、2曲目「ゲット・アウト・オブ・マイ・ライフ・ウーマン」が始まります。これは66年にヒットしたソウルナンバーのカバーとのことで、作曲者のアラン・トゥーサン(75歳だそうです)がピアノで参加しています。しかし何と言ってもこの曲の目玉は、ロックバンド・ZZトップのビリー・ギボンズとウィル・リーのツインボーカルですね。もちろんギターもプレイしていて、独特なファンクロックに仕上がっています。終盤のボーカルとギターとピアノの掛け合いは実に楽しそうで、聴いているこちらまで嬉しくなってしまいますね。ウィル・リーはこの曲でギターやオルガンもプレイしているようです。パワフルで派手なスネアドラムには、ゲートリバーブがかかっています。

3曲目は「ミス・アンダースタンディング」です。タイトルを見た時に私は「もしやリチャード・ティーの曲をカバーしたのか?」と興奮してしまったのですが、残念ながらオリジナルの同名異曲でありました。ちょっとがっかり(笑)。
ヒュー・マクラッケンのアコースティックギターから始まるこの曲は、ミディアムテンポの70年代ポップロックのような感じの曲です。と思ったらコーラスにオーリアンズのラリー・ホッペンが参加していました。ペダルスチールギターもそれらしい雰囲気を作っていますね。ドラムは、よく響くスネアドラムとタムのサウンドは派手なのですがバスドラムはなかなかにタイトです。スネアのリムショットはとてもリアルで、ハイハットやシンバルは高音域に片寄ったようなシャーンと鳴る感じ、と、なんだかとても個性的な感じがします。トミー・アレンというドラマーのようですが、どんな人なのでしょうね。終盤の女性ボーカルはオーストラリアのロックボーカリスト、クリッシー・アンフレットで、がっつりローカットしたような硬いサウンドのボーカルが一言ずつランダムにパンニングされています。

そして4曲目、ついにベースが主役のインスト曲「パポーネッツ・ライド」の登場です。ハーモニクスとグリスやスラッピングを多用した、まさにベーシストらしい曲で嬉しくなってしまいます。ウィル・リーの太いベースはホントに良い音してますね。シャープで軽快なドラムはナラダ・マイケル・ウォルデン、ボブ・ジェームスのMIDIピアノも冴え渡っています。コンガのようなパーカッションはウィル・リー本人のプログラミングによる打ち込みなのでしょうか。私個人的にはこのアルバムの中で一番のお気に入りの曲です。

5曲目「フールド・ヒム」の冒頭、カウントをとる声の後ろにうっすらと聞こえているシェーカーのような音は、ヘッドホンから漏れているみたいに聞こえますね。この曲は前作『OH!』に収録されていたような曲調のAORナンバーで、チャック・ローブのガットギターによるバッキングとエレキギターのソロが印象的です。堅実なドラムはスティーヴ・ガッド。そして非常に図太いベースのサウンドが楽曲全体をしっかりと支えています。ウィル・リーのボーカルはメロウなハイトーンボイスからちょっと苦しそうな最低音域(たぶん)まで、幅広くパフォーマンスしています。

6曲目はこのアルバムのハイライトと言っても過言ではないでしょう、戦争と平和をテーマにしたオリジナル曲「サハラ」です。まず、アフリカの民族楽器コラとトーキングドラム、チェロとビオラ、そしてエスニックなスキャットをメインとした重厚で緊張感あふれるアンサンブルがフェードイン気味に始まるというイントロに惹き付けられます。続いて入ってくるボーカルのリバーブが一瞬だけランダムにふっと深くなり、何とも言えない緊張感を演出しているこのアイデアにも脱帽ですね。弾力の感じられるスネアドラムにうっすらとかけられたゲートリバーブや、ストリングスのアレンジもこれまた緊張感を感じさせる見事なものです。
サビでは曲想がガラリと変わり、これもまたスティングを思わせます。きっとウィル・リーはこういう曲が好きなんですね。重低音のフレットレスベース、アフリカンハープのコラと絡むエレピ、そして終盤の盛り上がりなどなど、アレンジの素晴らしさが際立っています。ウィル・リーのシャウトもカッコイイですね〜。7分近い、アルバム中で最長の曲ですが、長さを感じさせません。大作です、はい。

続く7曲目は60年代オールディーズのカバー「1,2,3」です。この曲の目玉は何と言っても矢野顕子とのデュエットですよね。ゆったりと甘い曲調にアレンジされたこの曲に、2人のボーカルがよく似合っています。そしてもうひとつのポイントは、ウィル・リーのバンドのメンバーでマルチプレーヤーのジュリオ・カーマッシによるアレンジとその演奏です。ベースとギターはウィル・リー、ピアノは矢野顕子、ドラムはクリス・パーカーですがその他の楽器はすべてジュリオ・カーマッシがプレイしています。すごい才能ですね。
中盤のブロックでは全体に帯域の狭いフィルターがかかり、スクラッチノイズも付加されて古いレコード盤を再生しているようなサウンドになっています。その前後のつながりには無理がなく、しかもインパクトのあるアレンジになっている所もさすがですね。ノスタルジックなだけでなく現代的なスパイスもピリッと効いた曲に仕上がっています。終盤ではまたスクラッチノイズが聞こえていますよ。このサウンド的なアレンジは、古き良き時代の音楽に対するトリビュートなのでしょうね。

8曲目「シンプル・ウェイ・トゥ・セイ・アイ・ラヴ・ユー」は、トレモロのかかったニューエイジっぽいキーボードにのせて、フレットレスベースがゆったりと美しいメロディをとるインスト曲です。地味で堅実なプレイを聴かせているドラムはピーター・アースキン、ギターはジョン・トロペイです。中盤からはちょっとレゲエっぽい曲調になるのが面白いですね。ここでは透明感のある美しい音色のハーモニカがアドリブを聴かせ、終盤はフレットレスベースとの掛け合いになります。この気持ちの良い楽曲にアクセントを加えている、ウニョウニョと電波系を思わせる(笑)シンセサイザーは、ウィル・リー本人がプレイしているのかもしれません。

一転して始まる、力強いナンバーが9曲目「ネイティヴズ」です。ホレス・シルヴァーの「The Natives Are Restless Tonight」というインスト曲に歌詞を付けたカバー曲で、これも60年代の楽曲ですね。力強いバスドラムと重低音でありながらもゴリゴリとしたサウンドのベース、そしてオズ・ノイによる逆回転風サウンドのギターが、迫力と緊張感を両立させています。さらにはスティーブ・ルカサーの本領発揮ともいえるギターソロ、そしてスティーヴ・ガッドのノリノリのドラムソロまでフィーチャーされていますよ(これをガッドのソロアルバムで聴きたかったんだよなあ、ウィル・リーさん、ありがとう〜)。デビッド・ガーフィールド(とウィル・リー)によるアレンジのこの曲も聴き所満載、聴いて大満足の1曲です。

ラスト10曲目は数多くのカバー曲が存在する名曲、チャップリンの「スマイル」です。チャック・ローブとのデュオという形になってはいますが、ギターはボリューム奏法を駆使して、シンセパッドのようなサウンドの伴奏に徹しており、実質的にはベースソロの楽曲と言えそうです。ベーシストのリーダーアルバムのラストナンバーとしてよくあるような曲調ではありますが、スラッピングこそないものの、ハーモニクスやコード、グリスやトリム、はてはライトハンド奏法(笑)まで、ありとあらゆるテクニックを使い、この美しい曲を聴かせてくれています。短い曲ではありますが、ベーシスト必聴の1曲と言えるでしょうね。


さてさて、およそ20年ぶりに発表されたウィル・リーのソロアルバムは、以上のように大変聴き応えのあるアルバムでありました。バラエティに富んだ内容ですが、前作『OH!』よりもコンセプトが絞り込まれ、さらにグレードアップしているように思えます。カバー曲に関してはウィル・リーが最も影響を受けたであろう60年代以前の楽曲に限定し、全体的にはベーシスト、ボーカリスト、そしてソングライターとしての音楽的指向・表現にこだわり、アレンジやサウンドにも多くのアイデアを盛り込んでいます。しかも多くのゲストを招いて、楽しみながら作ったアルバムであることが伝わってくるのも嬉しいですね。

この『ラヴ、グラティテュード・アンド・アザー・ディストラクションズ』という長いタイトル、冒頭で直訳はダサいなどと書きましたが、あえて訳せば「愛、感謝、その他の娯楽たち」という事になるのでしょうか。これはきっとウィル・リーにとって、自分の「音楽」そのものの事なのでしょう。アルバムを聴き終えて、そんな風に思いました。

でもね、本音を言うと、前作にあったようなユーモラスでハジけた曲も聴きたかったな〜(笑)。



    


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COMMENT

PATTI

さはんじさん、Will Lee、
聞き応えありそうですね〜
あの、胸から出てるような声は
今も健在でしょうか。
ところで彼は私たちと同年代だったかしら?
なんかいつまでも若い気がする、不思議な人ですね。

2013.09.27(Fri) 16:09 | URL | EDIT

さはんじ

Re:

>PATTIさん
コメントありがとうございます。

歌声は全然変わりませんね。ホントに若いです。
調べてみたら、ウィル・リーは今月で61歳になったそうですよ。

2013.09.27(Fri) 17:30 | URL | EDIT

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