佐野元春『VISITORS』

2014.06.10(Tue)


VISITORS 20th Anniversary Edition (初回限定盤)(DVD付)VISITORS 20th Anniversary Edition (初回限定盤)(DVD付)
(2004/02/25)
佐野元春

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久々のCDレビュー、今回は1984年に発表された佐野元春4枚目のアルバム『ヴィジターズ』を取り上げてみようと思います。単身ニューヨークへ渡った佐野元春が、それまでの日本の音楽シーンには無かったような楽曲を突然発表した衝撃は、今でもはっきりと覚えています。メジャー系レーベル所属の日本人ミュージシャンとして初のラップ楽曲を収録し、ヒップホップの要素を大胆に取り入れたこのアルバムは賛否両論さまざまな評価を受けましたが、アルバムチャート第1位を記録しました。そして、バージョン違いやAB面を含めると、なんと収録された8曲すべてがシングルカットされています。

今なお色あせないこのアルバム、今年の秋にはリリース30周年記念のCD『VISITORS DELUXE EDITION』が発売されるそうなので、ここでサウンド・サイドなりのレビューをしてみようと思い立った訳です。今回私が聴いたCDは、2004年にリリースされた『VISITORS 20周年アニバーサリー・エディション』です。10年ごとに記念盤が出ることからも、このアルバムがいかに支持されているかが窺い知れますね。

1984年当時、友人に聴かせてもらったこの革新的なアルバムの良さは、私にはまったく理解できませんでした。佐野元春のファンだったその友人も半ば戸惑っていたような気がします。何と言っても初めて聴く日本語のラップミュージックのインパクトがあまりにも強烈で、拒否反応が出ちゃったのかもしれません(まあ今でもラップはそんなに好きじゃないんですけどね)。もちろん当時から称賛をもって受け入れた人も沢山いたのでしょうが、時代の最先端を行き過ぎていたが故の賛否両論だったのではないかと思いますね。

と、私の個人的な思い出話はさておき、早速聴いていきましょう。
1曲目は、これぞ本格的日本語ラップの先駆けとも言うべき「COMPLICATION SHAKEDOWN」です。衝撃的なイントロのアタックに続いて、図太いリズムとシンセベースのリフが雰囲気を作り出します。重く派手な音色のスネアとバスドラムはリズムマシンのようですね。ハイハットは生で細かく複雑なパターンを演奏し、ミュートギターと共にグルーヴ感を出しています。ボーカル(ラップですが)は絶妙に調子を変えたテイクをオーバーダブして、まるでハモッているかのようなダブルの効果がいい感じです。注目したいのはハンドクラップやウッドブロック、アゴゴなど様々なパーカッションが要所要所に配置され、華やかなノリを作っているところですね。キーボードやブラス系の楽器もセンス良く効果的に用いられています。間奏のサックスやエンディングのギターはなかなかに前衛的で、まさに Complication Shakedown といった感じです。

2曲目はアルバムに先行して発売されたシングル曲「TONIGHT」です。収録曲の中では最もキャッチーなメロディーの曲ですが、ポップな曲調の割にリズムのサウンドは重く、1曲目の「COMPLICATION SHAKEDOWN」と同等のサウンドに感じられます。重く単調なリズムマシンのスネアとバスドラムに、生のハイハットとパーカッション類が絡んで軽やかさを付加していますね。イントロやサビなどでは、音色の違う2つのシモンズドラムが左右に振り分けられてスネアと同時に鳴っています。これによってパワフルでありながら広がりも感じられ、楽曲にメリハリが与えられているように思います。ピアノとシンセサイザーの組み合わせや印象的なスキャットが華やかであるのに対して、ブラスセクションは少し位相をずらしたようなサウンドで何となくレトロな雰囲気が感じられ、そのバランス感覚もさすがだなあと思います。曲の後半になるとミュートギターがかなり自由に遊びだして、コンガと絡み合ったりするのはユーモラスで楽しいですね。

3曲目の「WILD ON THE STREET」は、コンガとカバサ(かな?)のパーカッションから始まるファンキー・チューンです。タイトなドラムはオマー・ハキムで、太くリズミカルなベース、シャープなリフをプレイするブラスセクション、多彩なカッティングギターといったサウンドにテンションが上がりますね(笑)。佐野元春のボーカルも相当にハイテンションですが、このボーカルに深めのリバーブがかけられているのが少し意外な感じがしました。ドラムとベースはモノラルにまとめられてセンターに定位し、その他の楽器類が大きく左右に広げられているようです。シンセによるSE、佐野"ライオン"元春(笑)のシャウトや女性コーラスもゴキゲンかつ効果的で、ノリノリのいい感じです。

アンニュイな雰囲気の漂うミディアムテンポのナンバー、4曲目の「SUNDAY MORNING BLUE」はピアノによるコードの連打から始まります。これはかなりの音圧感があり、いくつものキーボードが重ねてあるような気がします。ドラムはまたもや図太いマシンサウンドのようで、生のハイハットとアコースティックギターでノリを作っています。サビからはシモンズのフィルが入って良いアクセントになっています。ボーカルのサウンドは他の曲と比べてだいぶ柔らかめですね。間奏のアコギは12弦でしょうか。ボイス系のシンセもユニークです。後半に繰り返される不思議なフレーズはエレキギターやピアノなどいくつかの楽器がユニゾンでプレイしているらしく、独特のサウンドになっていますね。

さて、アナログレコードだとここからがB面になります。5曲目「VISITORS」は、前作『SOMEDAY』までの佐野元春サウンドが戻ってきたかのようなロックテイストあふれるイントロでホッとするのも束の間、同一音程の連続する、まるでお経のような(と言ったら大袈裟かもしれませんが)ボーカルが始まり驚かされます。わざと無機質な感じに歌っているようですが、ロボットボイスのような加工はされておらず、サウンド的にはナチュラルな印象です。「WILD ON THE STREET」と同じく生ドラムですが、こちらのほうがリバーブが深く、派手なサウンドになっています。オーバードライブギターの刻む低音のビート感とアコギのストローク、そして多彩なキーボードのフレーズが全体の雰囲気を作っていますね。

続く6曲目は「SHAME - 君を汚したのは誰」です。おそらくは佐野元春にとって初のプロテストソングだと思うのですが、 シンセベースなど全体に重いリズムのバッキングと、細かなハイハットや明るい音色でシンプルなフレーズをプレイするキーボードの対比が、絶妙のバランスを保っているように思います。タンバリンにかけられた深いリバーブもいい感じですね。ボーカルはヘビーなテーマを淡々と歌っていて、ライブパフォーマンスで披露される時よりもこのオリジナルバージョンはずっとソフトな印象です。忌むべき単語を羅列する部分では、そのソフトさがかえってリスナーの胸に強く訴えてくるように思えます。この歌に歌われた状況が、30年経った今でも変わっていないと思えるのは、とても哀しいことですね。

さてさて、7曲目の「COME SHINING」は、「COMPLICATION SHAKEDOWN」とサウンド的に対をなす曲のように思えます。同じラップの曲ですが、シリアスなテーマの「COMPLICATION SHAKEDOWN」に対してこちらは酩酊状態と言っても良いくらいの明るさが感じられます。アコギやシンセ、ブラスセクションなどによるリフのフレーズと、マリンバのような明るい音色のキーボードの絡みが、浮ついたような(笑)雰囲気を作っていますね。2コーラス目あたりからは、ミュートしたギターの弦をかき鳴らしたようなコロコロしたノイズが左右に揺れていたり、深いリバーブのかかったパーカッションの連打のような音が遠くに聞こえてきたりと、酩酊感が増していきます。間奏のトロンボーンソロや、エフェクティブなギターソロもそんな感じですね。歌詞に関しては明るいばかりでなく影となるような部分もありますが、サウンドはあくまでもハッピー、そんな印象の曲です。

そして、気合いの入ったカウントのかけ声で始まるラスト8曲目は「NEW AGE」です。イントロやサビの部分で繰り返されるユーモラス(と言ったら怒られるかな?)なスキャットが印象的ですね。シャープなドラムとルートを刻むベースに乗って、パワフルにコードを鳴らすピアノやアコースティックギターが、まさに新たな時代の幕開けを感じさせるような雰囲気を作っています。抽象的・比喩的表現を多く用いたやや難解な歌詞ですが、この曲はまさしくこのアルバム『VISITORS』のことを歌っているのではないか、と思うと納得できる部分が多々あるように感じます。エンディングでは「Sweet Sweet New Age」というフレーズが何度もリフレインされる中、かき鳴らされるアコギやバリトンサックスのソロ、佐野元春のシャウトが楽曲を盛り上げ、ついにはなぜかビートルズの「The Continuing Story of Bungalow Bill」のフレーズまで飛び出してきて、ゆっくりと全体がフェードアウトし、このアルバムは幕を閉じます。

と、オリジナルアルバムはこれで終わりなのですが、今回レビューしている『20周年アニバーサリー・エディション』では、この後にボーナストラックとして「TONIGHT」「COMPLICATION SHAKEDOWN」「WILD ON THE STREET」の3曲の「Special Extended Club Mix」が収録されています。これらは当時12インチシングルとして発売されたもので、低域を強調したロングバージョンとなっています。楽器の音色やエフェクト等に様々なギミックが加えられていて、アルバムバージョンとの違いを楽しむことができるのが嬉しいですね。
ただ、ここではあえてこれらボーナストラックのレビューはしないことにします。


ヒップホップのサウンドが少しも珍しくなくなった現在、30年前の革新的アルバム『VISITORS』のサウンドが古びて聞こえるかというと、決してそうではありません。図太いビートに様々な生の楽器、特にパーカッションやアコースティックギターを大胆にフィーチャーしたそのサウンドは、むしろ新鮮に聞こえるように思います。このアルバムが今なお多くのアーティストからリスペクトされるのは、当時の最先端サウンドのうわべだけを真似るのではなく、音楽や歌詞の本質的な部分まで掘り下げ、こだわったからこそなのでしょう。
当時、このアルバムが理解できなかった私ですが(汗)、今では自信を持って、多くの人に聴いてほしいアルバムであると言う事ができます。
もちろん、30年前の音楽としてではなく、今現在楽しめる音楽として。


   


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