Paul Simon『Graceland』

2010.06.23(Wed)


GracelandGraceland
(1995/01/25)
Paul Simon

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サッカーワールドカップが世界的に盛り上がっていることですし、今回は1986年に発表され、南アフリカの音楽を世界中に知らしめた名盤、ポール・サイモンの『グレイスランド』を取り上げてみたいと思います。ポール・サイモンは以前から世界各地の民族音楽を積極的に取り入れた楽曲製作を行っていましたが、このアルバムほどそのカラーを前面に打ち出したことはありませんでした。また、当時は南アフリカのアパルトヘイト政策に対する西側諸国の文化的ボイコットなどがあり、各方面より政治的な批判を受けたりもしましたが、アルバム、シングル共にグラミー賞に輝くという偉業を達成したのは、純粋にその音楽性が評価された証でしょう。このアルバムは全世界で1400万枚を売り上げているそうです。
ちなみに今話題になっている南アフリカの民族楽器ブブゼラの音は入っていません。

1985年、南アフリカの音楽に興味を持ったポール・サイモンはエンジニアのロイ・ハリーと2人で南アフリカに渡り、現地のミュージシャンとセッションを繰り返します。そこで収録したテープを持ち帰り、編集してリズムトラックを製作し、それを基にメロディーや歌詞を作り上げたと言います。現在ならばハードディスク・レコーディング等を用いた編集環境があるので、こういった音楽製作手法は珍しくありませんが、当時は前代未聞の方法だったはずで、その作業が困難を極めたであろうことは容易に想像できます。まさに時代を1歩も2歩も先取りしていたと言えるでしょう。

このアルバム『グレイスランド』は、2000年代に何度かリマスター盤(悔しいことにボーナストラック3曲付き)が発売されていますが、私は所有していないので(泣)1986年オリジナル盤CDについてレビューしていきたいと思います。

1曲目のイントロで、アコーディオンのリフを突き破るように打ち鳴らされるタムには強烈なインパクトがあり、とても印象的です。が、その他のリズムやベースが入ってくると、全体の音像はぐっと奥まったように聞こえます。これは深めに付加された残響によるものでしょう。また、太いベースやバスドラムの低音部に比べて高音は控えめにミックスされていて、全体的に柔らかいサウンドがこのアルバムのカラーになっています。ともすれば刺激的になりがちなアフリカン・リズムを和らげ、ポール・サイモンの楽曲世界を的確に表現するための演出なのかもしれません。あるいは、その独特の制作工程から、明瞭な音質をキープする事が困難だったとも考えられます。が、ここにボーカルが入ると全体がぐっと締まるように安定してくるから不思議です。これはサイモン&ガーファンクル時代からエンジニアを務めるロイ・ハリーのマジックなのでしょうか。

ビデオ作品「メイキング・オブ・グレイスランド」の中でポール・サイモン本人が、音に深みを与えるために、目立たないところにも色々な音を加えてある、と語っています。確かによく聴くとシンセサイザーやコーラスが随所に付加されていますが、これはどうやら楽器の音自体よりも、深くかけられた残響のほうに色をつけることが目的のようにも思えます。他にもピンポイントでリズムにかけられたロングリバーブやゲートリバーブなど、残響による演出が目立ちます。音の深みや奥行きにこだわったサウンドですが、リズムのメリハリやグルーヴ感は失われていません。このあたりのバランス感もさすがです。

もちろん、独特のノリと音色を持った南アフリカのミュージシャンによる演奏が、このアルバムのサウンドに大きく貢献しているのは言うまでもありません。レイ・フィリーの艶のあるギターの音色は個人的に大好きですし、レディスミス・ブラック・マンバーゾの荒っぽくもダイナミックなコーラスは本当に素晴らしいと思います。こういった優れたミュージシャンを世界中に紹介したという意味でも、このアルバムの価値は高いと言えるでしょう。

さすがに24年前の作品ですから、今の耳で聴けばヌケの悪いサウンドとも言えるでしょう。私はリマスター盤を聴いていませんが、きっとこちらはもっとクッキリとしたサウンドになっているはずです。
また、1993年リリースの『1964/1993』という3枚組のベストアルバムにはこの『グレイスランド』から7曲が収録されていて、もちろんリマスタリングされています。これらの曲はやはり明瞭度が上がり、オリジナルよりも明るめのサウンドになっています。が、全体の印象はそれほど変わっていないように思います。ただし、1曲目の「ボーイ・イン・ザ・バブル」はダイナミクス系エフェクトの影響か、不自然にボリュームが低くなるように感じる箇所があり、非常に残念に思いました。

1987年のライブを収録したビデオ作品『グレイスランド:アフリカン・コンサート』ではこのアルバムに参加した南アフリカのミュージシャン達の表情を見る事ができます。社会的・政治的に様々な思惑がつきまとうイベントでした(諸々の事情で南アフリカ共和国ではなく、隣国のジンバブエで行われています)が、皆、とても楽しそうに演奏しています。当時はまだ収監されていたネルソン・マンデラ氏を連れ戻そう、と拳を突き上げ歌うフリューゲルホルン奏者のヒュー・マサケラもまた笑顔だったのが印象的でした。
人種や国境や時代さえも簡単に越えてしまう音楽のパワーを見せつけられたような気がします。
そして20年以上経った今、サッカーのワールドカップが開催されるまでになった訳です。


さて、まったくの余談ですが、TV番組「タモリ倶楽部」の空耳アワーで、このアルバムの「ホームレス」という曲が取り上げられたことがあります。エンディング近くの部分で「車に車、車にシートベルト、すごい安全じゃん」と聞こえるというのです。シートベルトは苦しいと思いますが、すごい安全じゃん、には大笑いしてしまいました。興味のある方はぜひ聞いて探してみてください(笑)。


   


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