aiko『桜の木の下』

2010.08.18(Wed)


桜の木の下桜の木の下
(2000/03/01)
aiko

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aikoといえばもはや日本のトップアーティストのひとりであるという事に異論を唱える人はいないでしょう。強引と言っても良いくらいに独特な展開をするメロディーに、女性ならではの視点と語り口を持った歌詞を乗せ、元気にぴょんぴょん跳ね回りながら歌う姿は印象的で、特に若い女性からの圧倒的な支持を受けているようです。
2000年に発表されたセカンドアルバム『桜の木の下』は、「花火」「カブトムシ」「桜の時」といったヒット曲を擁して、売上150万枚を越える大ヒットアルバムになりました。
そしてこのアルバムはサウンド的にもなかなか興味深い内容となっています。

初めてこのアルバムを聴いた時、まず印象に残ったのは、1曲目「愛の病」のサウンド的な違和感でした。バックの演奏にボーカルがまったく馴染まず、浮いてしまっているように聞こえます。不思議な事に他の曲ではそんな感じはしません。

ではアルバムの全体的なサウンドを見ていきます。ボーカルはハッキリクッキリとした比較的硬い音です。ブレス・ノイズ(息継ぎの音)もハッキリ聞こえ、すぐ近くで歌っている感じです。リバーブはほとんど感じることができません。
それに対して、バックの演奏は高音が抑えられたヌケの悪い音で、リバーブもたっぷりと感じることができます。この極端なコントラストはおそらく歌詞をはっきり伝えたいという配慮の表れなのだろうと思います。たしかにボーカルがバックに埋もれる事なく、非常に歌詞が聞き取りやすくなっています。これはしっかりとした歌唱力があってこそできる(サマになる)ミックスバランスだと思います。
このサウンド傾向はアップテンポな曲だけでなく、「二人の形」や「カブトムシ」といったバラードにも共通しています。こういった曲でさえもボーカルにリバーブをほとんどかけないのは、なかなか勇気の要るミックスだと思います。また、スローテンポの曲ほどドラムの音像が近くなるように感じるのは非常に面白いと思いました。

このボーカルとバッキングのコントラストこそが「愛の病」に感じた違和感の原因なのでしょう。他の曲との違いは、おそらくアレンジの違いによる本当に微妙な音の厚みの差なのだと思います。この曲はとてもシンプルなロック・ナンバーで、ボーカルのバックになる部分のリズムがシンプルなだけに、他の曲に比べてほんの少しだけ薄いサウンドになっているように思います。ここでボーカルとバッキングに音の遠近感の差が出すぎてしまったのではないでしょうか。明確にこれが原因だと断言することはできませんが…。あるいは意図して作り上げた違和感である可能性もありますけど。

そしてもうひとつ、このアルバムで非常に印象的なのは、左右に定位した音の極端な分離具合です。
よくわかるのは「桜の時」のイントロです。左チャンネルから聞こえてくるピアノは、残響も含めて右チャンネルからはまったく聞こえません。このシュールな音場感は、ヘッドホンで聴くとめまいを覚える程不自然です。他の楽器が入ってくると気になりませんが、この曲では右チャンネルから聞こえるアコースティックギターも左チャンネルからはまったく聞こえません。ここまで潔くセパレートした定位も珍しいのではないでしょうか。「桜の時」以外の曲でも随所にこの極端な定位を聴く事ができます。

時々、iPodなどのイヤホンを片方ずつつけて仲良く歩く女子高生(とは限りませんが)の2人組を見かけることがありますが、このアルバムはそういった聞き方には向きませんね。まあそういう人達はボーカルだけ聞こえればいいのかもしれませんが。

定位といえば、9曲目「Power of Love」だけ、他の曲とは定位がまったく違います。ブラスセクションも含めてすべての楽器がボーカルの後ろに横1列に並んで、まるでライブステージが再現されているかのような音場になっています。この音の配置はノリの良いこの曲とよく合っていて、とても楽しく感じられ、好感が持てます。

アルバム全体のサウンド傾向はきっちり統一されているものの、それぞれの曲のミキシングやアレンジは多彩で自由で斬新です。キャッチーで元気の良い曲が多く、曲調もバラエティに富んでいて、aikoの個性的なキャラクターをうまく表現しているアルバムと言えるでしょう。


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COMMENT

フェイクAKE

おはようございます (*^_^*) 

過去記事にコメント書いてごめんね

さはんじさんが
どんな曲聴くのかなって探りにきたら
aikoの記事があったから
つい…

自分が聴きつくしたアルバムを
こんな感じで分析してるのってすっごく面白いです

うちも圧倒的な支持をした若い女性の一人です ←ん?
好きなんだよね

そーいえば
左からしか音が聞こえてこないっていうのたまにありますよね
それって
あえてそーして作り上げたってことなのね
音楽って奥が深いですね

2012.05.15(Tue) 05:52 | URL | EDIT

さはんじ

Re: おはようございます (*^_^*) 

>フェイクAKEさん
コメントありがとうございます。

過去記事のコメントも大歓迎ですよん。
言いたい事があったらバンバン書き込んでくださいませ。

現在発売されている音楽のほとんど全てに言えることですが、
音楽を構成する全ての音はエンジニアによって完璧にコントロールされています。
それぞれの楽器や声などのサウンドは、ひとつひとつ音質・音量・定位(配置)などが
ぜ~んぶ意図されて作り上げられているんですよ。

そんな事もちょっとだけ意識しながら音楽を聴いてみると、
いつもと違ったサウンドが発見できると思います。

2012.05.15(Tue) 10:17 | URL | EDIT

はつこめ

>まあそういう人達はボーカルだけ聞こえればいいのかもしれませんが。
失礼すぎですねwわらいました。
60年代の作品にはドラムが片方だけとかボーカルが片方だけとか多いですよ

2013.04.12(Fri) 17:02 | URL | EDIT

さはんじ

Re: はつこめ

>ぬさん
コメントありがとうございます。

失礼すぎましたか(笑)
おっしゃる通り、60年代の作品にはそういうものが多いですね。
おそらくそれは、録音できるトラック数が少なかったため、ステレオ2チャンネルに音像を広げることが難しかったからではないかと思います。ステレオという概念がまだ未発達だったのかもしれません。

そういった時代性なども充分に理解しているつもりですが、それでも私は、ドラムやベースが片チャンネルだけに寄っている録音が好きではありません。やっぱり気持ち悪いです。
モノラルにしてもらったほうがいいなって思っちゃいますね(笑)

2013.04.12(Fri) 17:19 | URL | EDIT

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