辻仁成「アンチノイズ」

2010.09.15(Wed)


アンチノイズ (新潮文庫)アンチノイズ (新潮文庫)
(1999/03)
辻 仁成

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今回ご紹介する音に関する本は、辻仁成「アンチノイズ」です。長編小説ですが、ここで取り上げる作品としては珍しくミステリではありません。音に造詣の深い作者ならではの、都会に生きる若者の物語です。

ヘッドホンステレオの爆音をこよなく愛するぼくは区役所の環境保全課の職員で、騒音測定の仕事をしている。仕事柄、様々な騒音と向かい合ううちに、身の回りの音に興味を持つようになり、「音の地図」を作り始めた。目下の悩みは恋人のフミが、近ごろ心を開いてくれなくなったことだ。
テレクラで知り合ったマリコはぼくに何でもしてくれる。彼女の趣味は盗聴だ。
そして偶然再会した昔のバンド仲間、郁夫はピアノの調律師をしている。彼は彼でまた大きな問題を抱えていた…。


…あらすじ紹介にも何にもなっていませんね(汗)。ミステリと違ってストーリーの展開が明確ではないので、こんな感じでご勘弁を。と、筆力の無さを棚に上げた言い訳はともかく。

この物語の中には、たくさんの音が登場します。都会に溢れる雑多な音、基準のあやふやな騒音、心を満たす大音量のロックミュージック、人との関わりを遮断するヘッドホンステレオの爆音、極めて個人的な電話の内容、見えないけれど誰でもキャッチすることができる電波、普通の人には解らないけれど演奏家にとっては妥協することのできないピアノのピッチ、騒音と共に人々の生活から閉め出されてしまった時を告げる梵鐘の音、等々…。
そしてこれらの様々な音が、見事に人の心と対比されていきます。

都会に限らず、現代はありとあらゆる音で溢れています。そして同じようにありとあらゆる思想や嗜好を持った人々が生活しています。そんな現代ではどんな事だって起こり得るのです。渦巻くノイズを排除しようとするのが若さであるならば、こういった混沌を受け入れていく事こそが、大人になるという事なのでしょう。この作品は、主人公がそれを痛感していくことになる、とても切ない物語です。

とてもいい小説だと思いますが、私はこの切なさがちょっと苦手です…。

ところで。

人によって「騒音」の捉え方は違うけれども、役所は数値上でしか基準を持ち合わせていない。この事に疑問を持った主人公が身の回りの音に興味を持ち「音の地図」をつくる、というストーリーは、マリー・シェーファーの「サウンドスケープ」や「サウンド・エデュケーション」をモチーフとしていると見て間違いないでしょう。
主人公が作成した「音の地図」は周りから絶賛されますが、それが持てはやされる程に主人公は腑に落ちない物を感じてゆきます。それは、ともすれば人はその優れた思想の形式ばかりを評価しがちだけれども、「自分の耳で聴き、感じる」という本質を忘れてはならない、という作者のメッセージなのではないでしょうか。


  


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