Marlena Shaw『WHO IS THIS BITCH, ANYWAY?』

2010.11.17(Wed)


フー・イズ・ジス・ビッチ・エニウェイフー・イズ・ジス・ビッチ・エニウェイ
(1994/02/23)
マリーナ・ショウ

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今回は、1975年に発表され、1994年にCD化されたマリーナ・ショウの名作『フー・イズ・ジス・ビッチ・エニウェイ』を取り上げてみました。この名盤中の名盤についてサウンドがどうのこうのと理屈を並べるのはまったくもって無粋な話で、黙ってこの素晴らしい音楽に耳を傾けるべきだとは思いますが、まあ、たまにはこんな聴き方をしてみるのもいいじゃないですか。ね、ね。

このアルバムは、ナンパをしようとしてしつこく言い寄る男性とそれをあしらう女性の会話から始まります。バックにはバーの店内ノイズが聞こえ、やがて2人が店の外に出ると、バックの音声は足早に歩く靴音と街の喧噪に変わっていきます。この会話と効果音は(素材テープの状態が悪かったのか、若干左右に揺れて聞こえますが)どうやらモノラルのようです。アルバムの終盤には海とカモメの効果音も入ってきますが、こちらもモノラルですね。
このドラマ仕立てのイントロダクションは、英語のわからない私などにとってはとてもツライ事なのですが、なんと3分あまりも続きます。ほとんど音楽1曲分ですね。このアルバムのトータルの収録時間は40分ほどですから、その割合はかなり大きいと思います。面白いのはこの会話の一言一句がすべて歌詞カードに記載されている事です。会話も曲の一部として扱われているという事でしょうか。モノラル音声の会話の中から立ち上がってくるステレオの楽曲には広がりが充分に感じられ、インパクトがあります。

ボーカルの録音は非常にナチュラルです。曲ごとに音の硬さ柔らかさはありますが、これはおそらくマリーナ・ショウの卓越した歌唱の表現によるものでしょう。全体にゆったりした曲が多い事もあり、たっぷりとしたリバーブがかかっています。アルバム中で最もグルービーである1曲目の「Street Walking Woman」でも、ブレイク部分でふわっと広がるボーカルのリバーブの残り具合はなかなか気持ちが良いです。

ハービー・メイスンによるドラムは、「Street Walking Woman」では勢いのある歯切れの良いスネアの音などが聴けるものの、全体的には落ち着いた地味なサウンドです。バスドラムもスネアも柔らかめの音で、ハイハットやシンバルなども控えめです。ただし、ここぞという時のタムはハービー・メイスンらしく前面にでてきます。
チャック・レイニーのよく動き回るベースもサウンド的には地味で、しっかりとアンサンブルのボトムを支えている感じです。

5曲目の硬質なアコースティックピアノはマリーナ・ショウ本人によるものだそうですが、この演奏は本当に素晴らしいですね。インタールード的な扱いで、1分ほどでフェードアウトしてしまうのが非常に残念です。できればもっと聴いていたいと思ってしまいます。
アルバム全体を通して聞く事のできるフェンダー・ローズもいい音してます。8曲目「Loving You was Like a Party」では部分的にワウのようなエフェクトがかかり、面白い効果を作り出しています。またこの曲では、クレジットはされていませんが、シンセサイザーによるリードが印象的なプレイをしています。

ギターは適度にノイジーで深みのある良い音です。元々ギターという楽器は色々なノイズを出す(ピッキングノイズや弦が指板やフレットに当たる音、指と弦が擦れる音等々)荒っぽい楽器なのですが、そういったノイズもすべてひっくるめてギターの音なのだと再認識させてくれるようなサウンドです。また、その荒々しさがギターのカッコよさでもある訳で、デビッド・T・ウォーカーやラリー・カールトンはそういったノイズまでも表現手段としてコントロールし、演奏しているのでしょう。

また、このアルバムではオーケストラも効果的に用いられています。ストリングスは個々の楽器があまり混ざることなく分離して聞こえます。全体が一体となったストリングスも美しいですが、このように分離しているとそれぞれの楽器の抑揚や表情といった演奏表現がよくわかり、生楽器の良さを堪能できますね。アレンジも素晴らしいと思います。

ところでこのアルバムは、使用されている楽器の数が多い上に、ドラムセットやピアノ、それにコーラスやオーケストラもきちんとステレオ収録されています。特にドラムやオーケストラのサウンドのクリアさからは、多数のマイクを使用しオンマイクで収録しているであろうと想像できます。現在の常識から考えればこのレコーディングに必要なトラック数は、録音された1974年当時に使用可能だったマルチトラックレコーダーのトラック数を上回っているはずです。
この名盤は、超一流ミュージシャンによる素晴らしい演奏はもちろんですが、レコーディングに関わったスタッフ達も当時の技術をフル活用し、工夫に工夫を重ねて作り上げられたに違いありません。

これは35年余も前に録音されたアルバムですが、1994年にCD化された際にリマスタリングされているためか、周波数レンジはさほど広くないものの、音質は決して悪くなく、音圧も感じられ、現在でも充分に聴き応えのあるサウンドになっています。惜しむらくは、裏ジャケットにも記載がありますが、マスターテープに起因すると思われるノイズが目立つ事です。全体にしっとりとした曲が多いので、ちょっとしたノイズでも気になってしまうのが残念ですね。

ミュージシャンの素晴らしいパフォーマンスを、変に過剰な加工を施さずストレートかつナチュラルなサウンドで録音した音楽は、いくら年月が経っても色褪せることがないと思います。このアルバムはそれを見事に証明しているのではないでしょうか。
しっとりとした曲が多いので、今の季節にぴったりハマるアルバムだと思います。とは言っても、きっとオールシーズン、いつ聴いてもイイものはイイんですよね(笑)。


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COMMENT

PATTI

過去巡り

マリナショウ。わたしも記事にしたよ、安易で浅いですが。コメントランのURLがそうです。
このかっこよさ、すごいですもん
でもなぜか昔は聞かなかった。全く。ジャケ買いの逆で、ジャケ避け?
あの素晴らしい声を 一度も聞かず。ああ、もったいない!

2012.07.30(Mon) 07:56 | URL | EDIT

さはんじ

Re: 過去巡り

>PATTIさん
コメントありがとうございます。

いつ頃だったかな、私も人に薦められてこのアルバムを知ったんですよ。
音楽を聴いたときに、その音楽と出会ったきっかけも貴重な思い出として蘇ってきます。
今はネットの普及で、昔よりも簡単に色んな音楽に接することができるけど、
音楽やそれにまつわる出来事を軽んずることなく、大切にしていきたいですね。

新しい記事も過去の記事も、気にせずコメントしてくださいね。
過去の記事にアクセスしにくいのがブログの欠点のひとつだと思いますが、
カテゴリから過去記事に少しでもアクセスしやすいように工夫しているつもりです。

今から思えばタグを使う手もあったのですが、ブログを始めた当時はタグが何のことなのかさっぱりわからなかったのです(実は今もちゃんとは理解できてません(^^;)。

ジャケ避けって、面白いですね。ちょっとサーモンっぽい響きが…(^^)

2012.07.30(Mon) 15:30 | URL | EDIT

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