井上陽水『断絶』

2010.11.24(Wed)


断絶断絶
(1996/06/26)
井上陽水

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今回は井上陽水(名義で)のデビューアルバム『断絶』を取り上げてみたいと思います。1972年に発表されたこのアルバムは、デビュー曲「人生が二度あれば」や、後に大ヒットする「傘がない」などの名曲が収録されています。ザ・モップスの星勝氏をアレンジャーに起用し、当時のフォークソングのアルバムとしてはアレンジもサウンドも大変凝ったものになっています。

こういったフォークソングの場合、やはり音楽全体の中でも歌詞が最も重要視されるものだと思います。当時は、歌詞をよりストレートに伝えるためにバックの演奏はひかえめなものにするのが常套手段だったと思いますが、このアルバムではそういった考え方から一歩踏み出して、アレンジや録音技術によって更に歌詞の世界観を盛り上げていこうとする意思が感じられます。

表現力豊かな井上陽水のボーカルは、つぶやくような歌い方からシャウト風の歌い方まで非常にダイナミックレンジが広いと思われますが、とても自然な良い音で録音されています。曲によっては大胆なエフェクトがかかったりもしますが、これも歌詞にこめられたメッセージをより伝わりやすくするための手段でしょう。全体にしっかりと全面に出て、歌詞の内容もきちんと伝わってきます。ただ、9曲目「白い船」の2コーラス目に、なぜか一瞬だけ極端にオフマイクになったように感じられる部分があります。これはちょっと気になりますね。

フォークソングでボーカルの次に重要になるのはアコースティックギターでしょう。このアルバムでも全体を通して聞く事ができます。サウンド傾向は全ての曲に共通していて、高音はシャッキリとしていますが、低音弦の音はやや細く、柔らかめの丸い音といった印象です。オケの中でのコードストロークは歯切れが良いですが、アルペジオや単音演奏の低音は少し物足りないかなと思います。

ドラムはタイトでありながらも太く重いサウンドで、基本的にモノラルにミックスされ中央に定位しています。曲によって存在感が増したり、ぐっと奥まって聞こえたりします。例えば「人生が二度あれば」の終盤の盛り上がりの部分でも、ドラムはタムを連打するなど派手な演奏をしていますが、非常に遠く控えめにミックスされています。
ただし時折エフェクト的な扱いで打ち鳴らされるタム類は全面に出てきて、オドカシ効果はバツグンです。

1曲目「あこがれ」で面白いのは、アコースティックギターの定位が1コーラスごとに左右に入れ替わる事です。ご丁寧なことに(笑)短い間奏の中でギターが右へ左へと移動していきます。歌詞の中の揺れ動く心情を表現した効果なのでしょうか。

2曲目「断絶」ではシャウト風のボーカルだけでも充分に「抑えきれない怒り」といったものが表現されていますが、更に大胆なエフェクトによってサウンド的にもそれを盛り上げています。彼女の父親のセリフの部分ではコーラスと可愛らしいピアノのアルペジオが皮肉たっぷりに感じられ、続いてドラムを中心に派手なフランジャー系のエフェクトがかかり、その対比がとても面白いと思います。曲の終盤でエフェクトはボーカルを含む全体にかかり、追い打ちをかけるかのように逆回転サウンドまで加わってきます。

続く3曲目「もしも明日が晴れなら」はとてもシンプルで可愛らしいラブソングですが、なぜか曲の一番最後のアコースティックギターにフィードバックがかかり、不安感をあおります。これはこの曲の歌詞に何かネガティブな含みがあるという暗示なのでしょうか。それともシニカルで少しユーモラスでもある4曲目「感謝知らずの女」に続くブリッジ(橋渡し)的な意味合いで用いられたエフェクトなのでしょうか。
そういえばこのアルバムではトニックコードで安定して終わる曲が少ないような気がします。

暗い曲調の5曲目「小さな手」の間奏で、場違いなムード歌謡風のテナーサックスが入ったり、シリアスな社会風刺の歌詞を明るい曲調にのせた8曲目「ハトが泣いている」では、ブラス系シンセサイザーの無表情なフレーズが印象的だったりと、何か意味ありげなアレンジが独特な雰囲気を作り出しています。「ハトが泣いている」の最後は極端にボリュームを上げたベースが次の曲への橋渡しをしていますね。また、10曲目「限りない欲望」では一部分のシンバルのみにフランジャーがかかり、ショッキングな演出をしています。

ラスト12曲目「傘がない」のアレンジは秀逸で、隙間の多いボーカルの間をぬって各楽器が代わる代わる印象的なフレーズを挟み込んできます。特に不定期に打ち鳴らされ深いリバーブをともなったドラムが衝撃的です。曲の後半の盛り上がりは、ストリングスとオルガンが見事に演出しています。最後のフェードアウトが短くあっさりと終わってしまうのは、CDになってより小さな音がクリアに聴き取れるようになったからなのかもしれません。アナログレコードでは自然な感じに聞こえたのでしょうね。

印象的なサウンドを思いつくままに羅列してみましたが、こういった仕掛けが歌詞の世界観や雰囲気を支える役割をきっちりと果たしていると思います。これはこの当時のフォークソングとしては画期的ともいえるサウンドだったのではないでしょうか。
そしてこのアルバムのアレンジやサウンドは、後のJ-POPに多大な影響を与えているのではないかと思います。


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