チューリップ『無限軌道』

2011.11.02(Wed)


無限軌道無限軌道
(2001/09/07)
チューリップ

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今回はチューリップの『無限軌道』です。名曲「サボテンの花」を収録したこのアルバムは1975年に発表されました。それまでの明るくポップなイメージから、よりロックのテイストが強くなったアルバムだと言えるでしょう。1972年にデビューしたチューリップの、これがなんと7枚目のアルバムです。1年に2枚のペースでアルバム制作をしていたんですね。

全体的なサウンドの印象としては、荒っぽくハイエンドもローエンドも物足りない、いわゆる古いロックサウンドということになるでしょうね。アレンジ等に関してもビートルズの影響が強い事はこのアルバムを聴いた誰もが感じるでしょうし、サウンド的にもそちらの方向を目指しているのは間違いないでしょう。
ボーカルはほぼすべてがダブリングされているように聞こえます。シンバルやハイハット等の高音域は極端に抑えられている一方、ベースは図太く密度感があり、全体に力強いバンドサウンドといった感じです。

1曲目「心を開いて」は、すべての楽器がリズム的にユニゾンという形で力強く始まります。リズム帯はサビ以外、このスタイルを最後まで貫き通します。左チャンネルに途中から入ってくるブラスセクションはやや線の細い印象なのに対し、右チャンネルのコーラスはかなりオンマイクで音像が大きく、この左右の対比が面白いです。間奏では、ブラスセクションがディレイで広げられています。何か位相系のエフェクトも加えられ、さらに細くなって粘っこいような面白いサウンドになっています。

あべ静江がカバーしたという2曲目「私は小鳥」は、イントロなしでいきなりボーカルとピアノで始まります。この音量がかなり小さく、この先大丈夫かなと心配になってしまいましたが(笑)気付かれないようにそーっとボリュームが上がり、リズムが入ってきた後と自然につながっています。気付いちゃいましたけどね、あはは。
この小さな音量は小鳥の独白を表現したサウンド的な演出でしょう。冒頭のピアノはエフェクトによってちょっとトイピアノっぽい雰囲気に加工されています。
終盤、ボーカルの「Tyu-Tyu-…」というフレーズがエレキギターとゆっくりクロスフェードしてエンディングに入っていくのも面白い演出ですね。

ボーカルにフィルターがかけられ、ラジオボイスっぽく加工された3曲目「愛のかたみ」は、なぜか掛け合い部分のもう片方のボーカルにフィルター処理がされていません。どんな意図があるのでしょうね。
この曲はボーカルも含め全体的に高音域を削られている感じで、そのため間奏のエレキギターと、特にエンディングのタンバリンの音が妙にリアルに浮き立って聞こえます。

そして4曲目「たえちゃん」は、博多に伝わる春歌をモチーフに作られた10分を越える大作です。レコード倫理綱領に触れるとの事で、歌詞の一部分がマスク音(いわゆるピー音)で隠されていて、アルバムには歌詞も記載されていません。
このマスク音が実によくできています。意味不明なシャウトやピアノ等の楽器の連打でつくられた非常に凝ったサウンドで、歌の途中に不意にフェードインしてくると、何かのフィードバック音のような感じがして、前衛的なカッコよさがあるんですね。曲中のアクセントとしてのインパクトは絶大で、これはもしかして、自主規制とは言いつつも、はじめからこういう効果を狙って作った曲なのでは? と感じてしまいます。マスク音とは言っても元の音楽に重ねただけではなく、マスク音が入ってくると音楽はすっとフェードアウトして、マスク音が消える前にふわっと復活します。曲の終盤、最後(4回目)のマスク音が入った後の曲の復活(フェードイン)の仕方が少々極端で、盛り上げるための演出のように聞こえるのも、狙いかな? と感じるところです。
アレンジやサウンドも全体的にかなり凝ったつくりになっていて、例えば途中でぐっとテンポが落ちて3拍子になる部分があるのですが、そこではボーカルにディレイがかかっていると思いきや、どうやらこれは実際に少しだけずらして歌っているようです。このずれ方が微妙に揺れていて、また定位が振り分けられていることもあり、不思議な浮遊感が出ています。
そんな事を踏まえて聴いてみるとこの曲は、酔っぱらいのオッチャン達がニヤニヤしながら大声で歌う下世話で破廉恥な歌を、フルオーケストラまで用いて壮大なロックの大作に仕立て上げた、いわばスケールの大きな「悪ふざけ」だったのでは、とも思えてきます。そういえばイントロの単音ピアノの最後の音も、ちょっとふざけた感じがしないでもありません。
ちなみにこの曲の無修正バージョンは、2000年に発表された『アンソロジ-1』に収録されています。が、この『無限軌道』のバージョンのほうがやっぱりカッコいいですね。

アナログレコードではここからB面という事になりますが、5・6・7曲目とゴキゲンなバンドサウンドのロックンロールが続きます。7曲目「一人がいいさ」は、またもボーカルにラジオボイスっぽいフィルター処理がされています。今度は掛け合いのパートもしっかりフィルター処理がされていますね。ハンドクラップが左・中央・右と順番に鳴り出したかと思うと、後半ではランダムな定位に振り分けられます。このあたりの遊び心も曲調とよく合って効果的だと思います。

8曲目はもうスタンダードナンバーと言ってもいい「サボテンの花」のオリジナルバージョンです。ボーカルは歌い方もサウンドもソフトな感じですが、歪み気味な粗っぽいサウンドのエレキギターのアルペジオがロックっぽさを残しています。コーラスは美しくいい感じですが、ソリーナ(シンセストリングス)の音は古臭さが否めません。ピアノの低音部を用いた間奏のメロディは深みがあってナイスサウンドです(この表現も古臭さが否めませんね、あはは)。

室内楽風のストリングスが印象的な9曲目「生きるといふこと」、アコースティックギターとウッドベースのみで伴奏した可愛らしい雰囲気のフォークソング、10曲目「ある昼下がり」とアコースティックな楽曲が続き、ラストは11曲目「人生ゲーム」です。
エレキギターのアルペジオと共に始まるボーカルはやっぱり音量が小さめですが、これは後半に盛り上がっていく曲調を活かすためのダイナミックレンジ的な狙いがあってのことだと思います。その後に入ってくる印象的なフレーズのベースは、オーバードライブさせたエレキギターとのユニゾンのようです。曲の後半では、ベースはブラス(チューバかな?)とのユニゾンになり、雰囲気をつくっています。シンセサイザー等も加わり、徐々にテンポを上げながら盛り上がっていき、このアルバムは幕を閉じます。


全体に曲調もバラエティに富んでいるし、1曲ごとにサウンドのデザインやミックスバランス等は違っていますが、バンドサウンドの目指す方向性に統一感があり、ちぐはぐな感じはしません。アレンジもサウンドも非常に凝ったアルバムで(私にとってもネタの宝庫という感じデス)、随所に実験的な試みが見られます。これほど手の込んだ完成度の高いアルバムを、半年に1枚のペースで作っていたというのですから本当に驚きです。





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